田園調布学園中等部・高等部
リベラルアーツに親しむ「土曜プログラム」

創立以来、人としての“根っこ”を育てる教育を志向してきた田園調布学園中等部・高等部。創立から90周年を迎えた今、生徒の将来を見据えた「21世紀型スキル」を磨くために、協同型探求型授業、学習体験旅行など、生徒の可能性を広げる教育活動が活発に行われています。今回はその中から、リベラルアーツに親しむ「土曜プログラム」に注目しました。

左:入試広報室長 細野智之先生 / 右:教務部土曜プログラム運営係主任 塚田清和先生

 

 

思考力・表現力にとどまらず、「コアプログラム」では社会性を、
「マイプログラム」では主体性を喚起

スタートから15年目を迎える「土曜プログラム」は、2015年に大きな進化があったそうですね。
細野先生
2002年から「土曜プログラム」は興味関心にそって、外部の専門家から学ぶプログラムとして、生徒の視野を広げてきました。講座も年々増やしましたが、中には慣れた講座を取り続けたり、仲良し同士で相談して決めたりする生徒もいて、多くの分野を異学年とも交流しながら学べる機会を生かしきれていない、というもどかしさもありました。何とか、未知の分野にも挑戦したからこその発見をしてほしいと願って、これまでどおりのものを「マイプログラム」とし、新たに、学年必修の「コアプログラム」を設けました。これは最後に必ずスピーチやプレゼンテーション等の発表を入れて、表現力や社会性、主体性を伸ばしています。生徒が新しい一歩を踏み出すきっかけをつくること、それが改革の一つです。
塚田先生
「コアプログラム」は、学年ごとにテーマを設定し、それまであった講座を再編したり、新たな講座を盛り込んだりして創り上げました。そうすることで、発達段階に応じた思考力・表現力を「コアプログラム」で身につけ、視野を広く持つための知識や技能を「マイプログラム」でフォローできますから、両輪をしっかりとかみ合わせた「土曜プログラム」になったのです。
3期分けに沿ったテーマで思考を深める「コアプログラム」
■第Ⅰ期【中1】
中1テーマ:幅広い知識/知的好奇心
(1)「ネットでのコミュニケーションを考える」
(2)「自分を知る」ワークショップ「薬と身体と私たちの健康管理」
(3)「多摩川両岸のフィールドワーク」
(4)「障がいをもつ人と共に生きる」
(5)「開発途上国の子供たちの現状を知る」

などの知的好奇心を刺激する体験重視のプログラムを通して、自己を知り興味・関心を大きく広げる。

左:障がいをもつ人と共に生きる(中1) / 右:多摩川両岸のフィールドワーク(中1)

 

■第Ⅱ期【中2~高1】
中2テーマ:食を通じて知る・考える
夏休み行事の農村生活体験と連動させて、苗植え、収穫、脱穀、精米、調理まで行い、日本の食文化への理解を深める。世界の食の未来にも関心を向ける。
中3テーマ:キャリアデザインⅠ(職業を知る・社会を知る)
卒業生や企業の協力を得て、社会人との対話を通して職業観や勤労観を育む。
高1テーマ: キャリアデザインⅡ(グローバルな視野で世界を見る)
「イノベーション・コンテスト」では、グループで企画力を競い、「語学を切り口として世界を知る」では、中国語・韓国語・フランス語・ドイツ語・イタリア語・英語から1つ選び言語と文化を学ぶ。

左:世界を舞台にしたキャリア・デザイン「イノベーション・コンテスト」(高1) / 右:語学を切り口として世界を知る(高1)

 

■第Ⅲ期【高2・高3】
高2テーマ:学びの深化/プレゼンテーション
小論文作成を通して、論理的思考力・文章の表現力とともに、多様な視点・論点から考察してまとめる力を鍛える。
高3テーマ:教科横断型の学び/知を拓く
受験講座や教科横断型の講座から自由選択して、大学受験にとどまらず、未来を生き抜くための知を拓く。

左:実験講座(高3) / 右:ネイティブによる英語特別講座

 

思考を深め、自信をつける「コアプログラム」の体験

「コアプログラム」は3つの期に分かれ、それぞれの学年にテーマが設けられていますね。
細野先生
本校では発達段階に合わせて期を分けた指導をしています。中1の第Ⅰ期と、中2から高1までの第Ⅱ期と、高2・高3の第Ⅲ期。「コアプログラム」はその期に合わせたテーマで講座を展開します。最後には必ず発表の機会があることが特徴です。
第Ⅰ期(中1)の「コアプログラム」のテーマは「幅広い知識/知的好奇心」ですね。まずはどのような力を育てるのですか。
細野先生
第Ⅰ期は学校生活に慣れ、円満な交友関係を作ることがまず大事ですが、その中でいろんなものに触れて、知的好奇心や創造性をつけることを目標としています。5種類の講座を設けて、クラスごとに体験していく中で知らない世界を体験して、興味を持つきっかけを作ることが狙いです。 例えば、「障がいをもつ人とともに生きる」という講座では、NHKで手話ニュースを担当されている方に来ていただいて、手話によるコミュニケーションを学びます。他にもユニセフハウスで発展途上国の子供たちの教育や健康などの現状を知って自分たちが当たり前ではないことを認識したり、多摩川のフィールドワークで身の回りの歴史や不思議を学んだりするなど、実際に行動して話を聞いてみて初めてわかることを体験します。そうすることで、生徒のアンテナに「何だろう?」「なぜだろう?」と引っかかりがあると思うんです。
まさに知的好奇心を刺激する第Ⅰ期ですね。第Ⅱ期は、「知る」「考える」というテーマが多くなっています。
塚田先生
第Ⅱ期(中2~高1)は学校生活に慣れて一歩を踏み出す個性伸張期に入ります。踏み出すために体験がつながるように、例えば中2は宿泊行事と、中3、高1はキャリアデザインと関連させています。中2の「食を通じて知る・考える」では、山形県酒田市で行うファームステイと関連させます。受け入れ農家の方に講演していただいたり、農作業体験をしたり、その上で現地の食生活に触れて、生徒の心に強く残る体験になります。
第Ⅱ期でも中3、高1になると「キャリアデザイン」というテーマで、中2の内容とは全く違ってきますね。
塚田先生
中3、高1では、視野を外に広げ進路を意識していきます。中3は職業研究を中心に、卒業生のほか、大手の企業から来ていただいた方から職業についての講座を1年間受けます。高1では視野を世界に広げ、7種類の語学から選択するグループと、講師を招いて今の時代に必要な企画力を学び、「イノベーション・コンテスト」で競争します。文字通り一歩踏み出そうとしてか、「イノベーション・コンテスト」に人気があり、お互いに意見を交わしていく中で積み上げていく過程を経験することを楽しんでいるようですね。
第Ⅲ期(高2・高3)ではより実践的な学びになっていくのでしょうか。
細野先生
第Ⅲ期は発展充実期ですね。高2では、小論文を書いて表現力をきちんと身につけることがテーマです。ただ単に小論文の書き方を学ぶのではなく、例えば「かわいい」をキーワードに思いつくことをたくさんあげてみるなど、あくまで表現力を重視しています。高3は、大学受験に向けた講座だけでなく、その先の学びを意識した講座があります。また、理科実験に特化した講座など、高3だからこそ生涯にわたって知を拓く幅広い学びができることが「コアプログラム」の強みです。
「コアプログラム」で成長段階に合わせた経験や知識を積んでいく生徒たちに、変化は感じられますか。
細野先生
スタートから2年ですが、手応えはあります。はっきり変わってきたと感じるのは、生徒が外部に向けてどんどんチャレンジするようになったということです。例えば、JAXAの教育プログラムに応募して種子島での衛星打ち上げの見学に行ったり、文科省のトビタテ留学JAPANや企業の奨学生に合格して海外研修をした生徒も4名も出ました。また、本校では特に東京理科大学との連携を密にしていますが、東京理科大学主催のグローバルサイエンスキャンプや、ノーベル賞受賞者とのシンポジウムにも10数名の生徒が参加しました。そういう外の世界に出ていくようになってきたことは、校内での発表やいろいろな体験をすることで視野が広がって、やれば出来るという自信がついたからかと思います。
5分野・約170の講座から興味・関心で選ぶ「マイプログラム」
【世界を生きる】語学・伝統文化・メディア
講座一例:「英語で音楽を学ぼう」「フランス式フラワーアレンジメント」「カリグラフィー」「ロシア語講座」「東京の和太鼓」「バイオリン」ほか

左:国連の窓から世界を見る / 右:アラビア半島へ行ってみよう!

 

左:日本舞踊 / 右:カリグラフィー

 

【社会とつながる】総合文化・フィールドワーク
講座一例:「フラワーデザイン」「地域をフィールドワークする」「はじめての経営学」「音のない世界をのぞいてみよう」「生き方入門」「緑丘保育園で保育体験」ほか

左:あなたも敏腕編集者 / 右:ナースの魅力って何?

 

左:フラワーデザイン / 右:仕事最前線

 

【健康なからだをつくる】スポーツ・健康
講座一例:「ヴォイストレーニング」「燃えるサッカー」「料理講座」「食生活と健康」「健康情報リテラシー」「エアロビクス」「卓球」「ヨガ」「声楽」「水泳」「食育」

左:ヴォイストレーニング / 右:ヨガ

 

【身の回りの不思議にせまる】科学・技術・環境
「やってみよう天気予報」「いのちをつなぐ遺伝の話」「プラネタリウム投影」「宇宙最前線」「理科ふしぎ不思議」「植物に会いに行こう」「私たちと森林」「PCを使った画像処理」ほか

左:PCを使った画像処理 / 右:理科ふしぎ不思議

 

【知を拓く】学びの講座・受験講座
「高2Listening講座」「高2古文演習」「高2数学基礎講座」「高2ネイティブによるライティング講座」「高3国公立大英語」「高3文系数学」「総合物理」ほか

左:総合物理 / 右:高3国公立大英語

視野を広げる「マイプログラム」

「マイプログラム」は5分野で約170の講座がありますが、刺激を受けそうな面白い講座や知識を磨けそうな講座など、内容はさまざまですね。
塚田先生
「マイプログラム」は生徒が自分の興味や関心を持ったものを選択します。全8回ですが8回セットの講座もあれば、単発の講座、学年指定の講座などがあり、校外で行う講座もあります。
細野先生
例えば、1時限目は英語、2時限目はバイオリンにして通年で取ったり、単発の講座をたくさん取ったり、生徒によって異なります。花に関連したものだけでも、英国式、フランス式のフラワーアレンジメント、生け花と3種類ありますが、ただ花の生け方飾り方を習うことが目的ではなく、その国の文化を感じ、もっと知ろう学ぼうとすることが目的です。それがリベラルアーツであって、お稽古事やカルチャースクールとの違いでもあります。
人気の講座はどのようなものですか。
細野先生
中学生を対象にした「理科ふしぎ・不思議」という理科の実験講座は、レモン電池を作るとか、身近にあるものを使って楽しみながら実験する講座で人気ですね。入学時は算数が苦手という生徒が90%くらいいるのですが、卒業時には理系選択の割合が45%くらいになっています。授業はもちろんですが、「マイプログラム」の理系講座が充実していることもその理由として大きいと思います。やはり生徒が自ら踏み出していくと、先のステージが開かれて行きますね。自分で選ぶ、自分で考える、自分でやってみる、という体験の面白さを生徒も知っていると思います。
女子は仲間がいるから頑張れる 将来につながる協力・協働で生み出す力

最初に「土曜プログラム」を「コアプログラム」と「マイプログラム」にしたときに、「自分から進んで踏み出せない」というもどかしさを言っておられましたが、反対に女子校だからできることや可能性の広がりはありますか。
細野先生
本校の生徒は入学当初は控えめで、とにかくやってみようと積極的に行動する生徒は少ないように思います。それだけに幅広い分野の体験が5年、6年と蓄積されていけば、「できそう」「もっとやれそう」「面白そう」という思いも積み上げられて、それが学習面にもつながっていくのではないかと実感しています。さらに、女子は1人でやるよりもみんなでやることが好きなんですね。仲間がいるから頑張れる、仲間と一緒だから楽しいしさらに面白くなってくるので、先ほどの「イノベーション・コンテスト」など、協力・協働が新しいものを生み出すという成功体験が将来につながってくるのかなと感じています。
塚田先生
「イノベーション・コンテスト」を指導してくださる方々が、他の男子校でも講座を持たれていて、両校2組ずつ優秀なチームを選んで発表会をしてくださいました。その講評の中で、本校の発表はチームワークが大変いいというところが評価されました。男女差はないのかもしれませんが、女子の団結力は強いですね。
「土プロノート」は、どのように活用されていますか。
細野先生
「土プロノート」は、新しい「土曜プログラム」になった2年前から始めました。講座内容、その講座で学んだことをノートに記録しておくようにしています。内容と共に感想を書いておきますので、最終的には自分史の一部のようになって宝物になるのではないかと思っています。
塚田先生
こういう見方もあったんだなと、私たちが思っていた以上にしっかりと受け止めています。ただ単に板書の写しやあったことを書くだけでなく、感想や自分はこれからどうありたいかを書いています。やはり経験が貴重で糧となっているんだなと思います。
土プロノートより抜粋
■中1コアプログラム「ネットでのコミュニケーションを考える」
・SNSは、1回投稿すると拡散されてしまって、誰でも見えるようになってしまうのでこの投稿は相手を不愉快にさせないのかを考えたい。たくさんの利用サービスがあるが、それを有害にしないように自分のことをちゃんと考えたい。
■中1コアプログラム「障がいをもつ人と共に生きる」
・私は障がい者という言葉が嫌いです。自分でのぞんで障がいを受けたわけでもないのに、その言葉にひとくくりにされてしまう人たちがかわいそうで仕方がありません。人間は差別をしたい動物とは知っていますが、やることがあまりに残酷で耐えられないこともあります。この授業では、私は障がいを持ってしまった人たちに差別はしないという決心がつきました。
■中1コアプログラム「開発途上国の子どもたちの現状を知る」
・先進国に生まれ育った私と、毎日水くみに行かなければならない子供たち。同じ人間であるのになぜこんなに格差があるのかとても不思議です。
・どんな子もどんな人も絶対に笑うことがある。その瞬間がずっと続かないのは、人間のせいなのか? もっと世界について、平和になるように考えてみたい。
・ユニセフハウスに行ったことで、自分はとても恵まれていると思いました。
「土曜プログラム」は、6年間で“根っこ”を育てるリベラルアーツ

「土曜プログラム」など多様な教育を通して、田園調布学園ではどのような生徒を育てたいと考えられていますか。
細野先生
本校では今、在校生が社会に出る頃の2030年に輝くことを目標としています。どんな世界になっているか想像はつきませんが、その時に必要な能力を6年間かけてすべての教育活動で育てていければ、生徒の“根っこ”の部分がしっかり作られ、どんな社会になっても活躍できるのではないかと思っています。本校の生徒はシャイでなかなか自分を表現できないことも多いのですが、そういう生徒たちも少しずつ殻を破り、未知のことに挑戦しよう、一歩前に踏み出そうとする体験を積む6年間にしたいと考えています。「土曜プログラム」もそのための糧となるようにと思います。
“根っこ”を育てるというのがいいですね。
塚田先生
大学に行ってからが本格的な学問になるわけですが、中高の間にしっかり土台を固めておくことが大切です。それが「土曜プログラム」にももちろん授業にも求められますし、生徒会活動などすべての面で土台をしっかり作っていくことが大事だと考えています。
細野先生
中学高校は大学入試のためにあるわけではありません。今後の人生の基盤つくりの大事な時期であり、多くの経験をしたからこそ、その後どんどん幹が太くなり葉をつけたり実をつけたりしていくと考えています。今は幹がまだ細くても、土台になる“根っこ”がしっかりしていれば、将来それが伸びて、それぞれのフィールドで輝けると期待しています。

 

SCHOOL DATA
田園調布学園 中等部・高等部
〒158-8512 東京都世田谷区東玉川2-21-8
http://www.chofu.ed.jp/
 

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