明星学園中学校・高等学校 弓道部
日本古来の武道に親しむ弓道部

生徒の個性を伸ばし、「自主自立」の精神を重んじる校風が大きな特長である明星学園中学校・高等学校。活躍する様々な部活動から、心身の鍛錬が必要とされる日本古来の武道に親しむ弓道部を紹介します。基本の型を修得し、技を常に実践できるだけでなく、自分自身と向き合って精神を安定させることや安全性も求められる稀有なスポーツ弓道。その魅力と、自由を尊ぶ明星学園の生徒たちならではのクラブとの向き合い方を探ります。

試合や練習前は必ず神前礼拝。今日も、神棚に向かって全員で一礼二拍手!

全員が胴着にはかま姿で、弓を引く右手に鹿の皮で作られた弓がけをつけ、弓を持つ左手の 内側には滑り止めの「筆粉」をつける。稽古は、体を慣らして射形を確認する意味でも、まずは巻藁(わらを強く巻いた練習用の的)練習からスタート。

射場の的前での稽古は、3~4人がチームになって順に立ち練習。明星学園弓道部のモットーは、正しい射形で基本をきっちり行うこと。あたりが確認されると「あーたーりー」と的側から声が聞こえ、それに呼応するように部員から「しゃー」の声があがる。他にも「お願いします」「ありがとうございました」と、場内で常に大声で確認し合うのは、矢を射る弓道において大切な安全対策。

全員が初心者の中学生部員たちは、先輩に稽古をつけてもらいながら弓道の技と心を磨いていく。早気(はやけ・当てることに意識がいって、待たずにすぐ矢を離してしまうこと)対策も、経験して克服した先輩の言葉ほど理解しやすい。

一.足踏み / 二.胴造り / 三.弓構え / 四.打起し / 五.引分け / 六.会 / 七.離れ / 八. 残心

Profile / 明星学園中学校・高等学校 弓道部
2003年に高校の旧館屋上での練習を生徒2名でスタート。その後も屋上や市の弓道場などを利用しながら活動を続け、2005年に同好会を結成。2006年に部員数の増加や活動実績により弓道部に昇格した。2016年春には新しい弓道場が完成している。 正しい姿勢で弓を射て、28メートル先の的にあてることが求められる弓道は、的にあてるために精神面の鍛錬も求められる。現在、部員は中高合わせて40名。中高別々に平日週2日練習し、土曜日は中高合同での練習を行う。中学の練習には高校生がローテーションで2~3人付き、先輩から教わって上達するという流れが定着している。 2017年の東京第三地区中高生弓道大会では、高校女子Aチームが団体3位に入賞。個人戦でも高校女子が優勝と準優勝、中学男子が優勝、中学女子が4位入賞と活躍している。

先輩から技術や礼儀を学べる弓道は団体競技

左から/岡部くん[高校2年・副将] 飯室くん[高校2年・主将] 笹野さん[高校2年・主務] 石川くん[中学3年・主務]

真冬は寒く、真夏は暑い弓道場で忍耐力がつく
ココロコミュ
弓道部に入部した理由を教えてください。
岡部くん
僕は武道をやろうと思っていて、剣道部か弓道部かで迷っていたのですが、剣道経験者の母から「剣道は足裏の皮がすれて痛い」と聞いたので、弓道部に決めました(笑)。弓道は厳しい面もありますが、上下関係の少ない部活だったので、入部したらすぐに親しむことができました。
飯室くん
僕も小学校で空手をしていたので、中学で武道がしたかったんです。岡部くんと同じように剣道と弓道で迷っていたら、高校時代に弓道をしていた父にかなり勧められたので入部しました。ただ、最初の基礎練習が本当につまらなくて、中1と中2の時は部活が嫌いでしたね。中3の夏の初めての大会で入賞できたことで、だんだん弓道の面白みがわかってきて、今まで頑張ることができました。それまでは「なぜこんなことをしているんだろう」と、思っていました。
笹野さん
中学から新しいことをやりたくて、物珍しさで弓道部の見学に来たら、雨で練習 が中止になっていたんです。その時にいた先輩が熱心に弓の説明などをしてくださって、いい先輩だなと思って入部を決めました。弓道部は、先輩と後輩の仲が良くて距離が近いので楽しいです。
石川くん
僕は小学校が明星学園で、低学年の時に高校の明星祭で弓道部の体験をさせてもらったんです。それで憧れを持ち、中学で弓道部に入ることを決めました。弓道は、武道の精神などを教えてもらえて心が鍛えられます。先輩もいろいろ教えてくれます。

後輩からも先輩からも積極的に声を掛けて、より良い射形を目指す

ココロコミュ
家族や先輩の影響でのスタートが多いんですね。明星学園弓道部の良さはどこに感じますか。
飯室くん
学校全体の雰囲気もありますが、先輩と後輩の間でも敬語を使う生徒はあまりいません。礼儀という最低限のラインは超えない中で、先輩後輩の仲の良さがあることが良さかなと思います。特に弓道部は経験者の少ない部活で、ほとんどの生徒が中学か高校から始めています。技術は部内にいる人から習うしかないので、そういう意味では距離が近くなければいけないと思いますし、それが弓道部らしさになっていると思います。
岡部くん
弓道部はフレンドリーで、いい意味での笑い声が響きわたるような部活だと思います。ただ、春と夏の合宿で、礼儀の正しさや時間を守ることなどを後輩に教えるようにしています。教える時と仲の良い時と、けじめをつけてやっています。
ココロコミュ
弓道という武道ならではの学びも多そうですね。
石川くん
集中力はつきますね。それに弓道の弓が長いので、電車で邪魔にならないようにするなど周りへの配慮が身につきました。
笹野さん
弓道場は、真冬は本当に寒く、真夏は本当に暑いです。道場は神聖な場所なので、 裸足ではなく足袋をはきますが、弓道着や袴は薄着だし、足元にホットカーペットを敷いてもあまり変わりません。練習だけでなく、そこでも忍耐強さは鍛えられると思います。

団体戦で勝てたときの喜びが一番大きい
ココロコミュ
弓道部で頑張ってきた中で、印象に残っていることは何ですか。
岡部くん
自分の努力が成績として残るという意味で、大会で勝った時が一番嬉しかったですね。それも個人で入賞したときより、団体で入賞したときの方が嬉しかったです。弓道は個人技ですが団体で集計して勝敗を決めます。自分の調子が悪かった時、仲間が調子を上げてくれて入賞できた大会があったんです。その時は本当に嬉しかったです。弓道が団体競技だということは、勝たなければわからないと思います。 辛かったことは、「早気(はやけ)」に陥った時です。「早気」は的を見て狙いをつける前にすぐ矢を離してしまうことで、一度はまるとなかなか抜けられないんです。成績にどんどん影響が出て、直すのに苦労をして、部を辞めようかと思ったくらいです。
飯室くん
僕も岡部くんと同じ大会で同じチームで入賞したのですが、入賞が初めてだったこと、個人と団体と両方で入賞することができたことが、今でも弓道を続けるきっかけになりました。またその大会で、各チームの的中が同じで、各チームが1人1本ずつひいて最後の決着をつける場面が5回続いたとき、僕はそれを全部外したんです。岡部くんともう一人のメンバーがずっと当て続けてくれたおかげで入賞という結果につながったので、その時に団体戦の楽しさに気が付きました。 辛かったのは、入部したばかりの頃の基礎練習です。武器を使う競技なので、安全のためもあって座学も多く、運動部に入ったのになぜこんなことをしなければいけないのかと思って苦痛でした。でもそれがなければ、ここまで続けられていないので、やっておいてよかったと思います。
笹野さん
私は大会で勝ったことがないのですが、自分が出ていなくても同じ学校の先輩や部員が勝っているとすごく嬉しくて、部活に入っていてよかったと思います。弓道は個人競技という印象があるかもしれませんが、チーム意識はすごく高いと思います。 辛かったのは、やはり早気です。今でも直っていないのですが、一番ひどい時は完全に形が崩れてしまって、私も辞めようかと思いました。でも、部員のみんな好きなので、辞めずに続けてくることができました。
石川くん
僕は、中学1年で基礎練習が終わって、初めて弓を引いた時がすごく印象的です。辛かったことは、僕は猿腕なので、弦に当たって痛かったのですが、練習で当たらないようにして克服しました。

先輩から後輩に弓道の礼儀や技を教えるのが伝統

個性豊かな人が多いから楽しくやれる明星学園
ココロコミュ
最後に明星学園中学校高等学校の良さを教えてください。
石川くん
他の学校と違って、上下関係もなく先輩もフラットでフレンドリーです。
笹野さん
私が中学から入学して一番驚いたのは、クラスメートの男女の仲の良さや先生と生徒の距離の近さです。それは明星学園の魅力のひとつだと思います。部活でも、弓道のことだけではなく、家のことなどいろいろ話します。先輩がコーチで指導に来てくれることも多いですが、とても優しく教えてくれます。
飯室くん
僕は小学校からずっと明星学園にいますが、独特な教育だとよく言われます。例 えば、水泳の授業を受けたことがないとか、いろいろ変わった人が多いとも言われるのですが、それはいい意味で個性豊かな人が多いということです。単純な作業を続ける弓道部のような部活でも、いろいろな個性の人がいるから楽しくやれるのではないかと思いますし、楽しみながら弓道ができるという点では明星学園の弓道部が一番だと思います。
岡部くん
特に中学は、時間をたっぷりと与えてくれて、部活に励むことのできる時期がたくさんあります。勉強ばかりではなく、時期によって部活だけに集中して頑張ることができるので、部活で強くなれます。また、弓道部は他校との交流も多く、他校の先輩からも自分の学校の先輩からも技術や礼儀を学ぶ機会があります。自由が多い中で様々な学びがある部活だと思います。
文化部的運動部「弓道部」大切なのはけじめ

弓道部顧問 数学科教諭 平野康弘先生

正しい射形と基本に忠実に弓を引くことがモットー
ココロコミュ
平野先生は、6年前に顧問を引き受けられたそうですね。
平野先生
以前の顧問だった村田晴海先生は、大会での優勝経験豊富な有名な方でした。その村田先生が定年退職されることになり、私が後を継いで弓道部の顧問になったんです。それまでは全く知らない世界でした。 最初は、生徒と一緒に練習を始め、 1年後くらいに段級審査を受けて、初段に合格しました。それからはなかなか上達せず、生徒たちに教わりながらやってきて、昨年ようやく2段に合格しました。
ココロコミュ
部員も初心者が多いのですか。
平野先生
中学1年生は全員が初心者です。小学生に弓は引かせないという弓道連盟の決まりがあるんです。アーチェリー経験者はいますが、全く違う世界ですね。
ココロコミュ
弓道部の練習で、大切にされていることはありますか。
平野先生
モットーは、正しい射形と基本に忠実に弓を引くことです。そうすれば当たりも出てくると繰り返し言っています。 生徒たちは「あて射」といって、どうしてもあてることばかりに気が行きがちで、つい基本を疎かにしてしまいます。その典型的な症状が「早気」です。本来なら、構えて弓を離す前の状態を3秒ほど続けるのですが、あてることだけに意識がいっていると待つことができず、すぐに離してしまうんです。早気になり始めの頃は当たり続けるのですが、そのうち射形が乱れてきて、必ず当たらなくなります。それを直さないと、絶対に試合で通用しないことが部員は皆わかっています。
ココロコミュ
あてることを意識するのは当然のように思いますが、それで射形が乱れるんですね。
平野先生
「早気」は、ほとんどの生徒が一度は陥って苦しみます。その克服のために、今の中学の主将は、3秒以上持たないとあたってもバツにするという厳しい決まりを実践しています。そうすると意識するようになり、また射形も良くなっていくんです。反対に悩んで辞めていく生徒もいます。
ココロコミュ
入部したら、最初はどのような練習をするのですか。
平野先生
最初は何も持たずに、弓道の射法八節「足踏み」「胴造り」「弓構え」「打起し」「引分け」「会」「離れ」「残心」を徹底的に1か月ほど練習して体に覚え込ませます。ひとつも漏れなく正しい姿勢を作らせてから、ようやく弓の代わりのゴム弓で練習することができます。そのゴム弓の練習にも1ヶ月ほどかけます。 その後、本物の矢はつがえないで弓だけを持って引く練習に入り、その後に巻き藁を使った練習に進みます。夏休み直前くらいまで、的の前には立てません。それは伝統的に生徒たちの中で作られてきた習慣です。
ココロコミュ
基礎の体力作りなども必要ですか。
平野先生
そうですね。特にゴム弓さえ引けない力の弱い生徒には、毎日腕立て伏せをやるように指導しています。最近の生徒は外で遊ばない子が増えているので、筋肉がついていないのです。一番軽い6キロの弓があるのですが、それでもよろけてしまう生徒がいるほどです。
ココロコミュ
そういったことができなければ、弓道は続けられない?
平野先生
せっかく入部しても7月までに辞めてしまう生徒が数人は必ずいます。それに耐えれば、5泊6日の夏合宿で的前に立つ練習がありますので、そこで初めて的にあたる経験をします。夏合宿では、1日100本を引く練習に中学1年生も参加してクタクタになりますが、それでかなり上達します。

インタビュー中、実際に射形を見せて解説してくださる平野先生

弓道は、けじめをつけてこそのスポーツ
ココロコミュ
なかなか厳しいクラブですね。
平野先生
競技そのものが厳しさを要求しているだけで、クラブの雰囲気は厳しくはありません。危険が伴うスポーツですから、安全面のことは徹底的に厳しく言います。先輩が後輩に教えていることでもあります。 例えば、28メートル離れた砂の斜面の上に的があるのですが、放った矢を取る場合は、「矢取りお願いします」と大きな声で合図をします。聞こえたら「確認します」「矢取り入ります」と答えます。お互いが大声で合図をしなければ、近くで他のクラブも活動をしています し、矢が危険です。また矢取りの間は、次の準備をしている部員は腰に手を当てています。 1人でも取りかけをしたら、かなり厳しく注意します。とにかく確認の声掛けが重要ですから、普段は声が小さい生徒も部活では大きな声が出せるようになりますね。
ココロコミュ
弓道が求める厳しさと、安全面での厳しさがあるんですね。そんな弓道部の活動の中で、平野先生が大事にされていることは何ですか。
平野先生
けじめをつけることですね。クラブで仲良くなっていくので、特に中学生はクラブ中でもおしゃべりが始まったり、ふざけ合ったりしてしまいます。でも道場の中では静かに集中するように言っています。危険を伴うスポーツだということを意識させなければ、慣れが一番怖いからです。弓道は、けじめをつけてこそのスポーツなんです。 けじめという意味では、本校では先輩と後輩が仲良く上下関係もほとんどありません。仲が良いからこそ気楽に聞けるし、細かいところを教えてもらえて、どんどんうまくなっていくのだと思いますが、先輩を“さん”付けで呼ぶというけじめはつけさせています。
ココロコミュ
部員たちはその中で成長していくわけですね。
平野先生
高校2年生が一番上の学年になりますが、弓道は目標がたくさんあって、難しい型や射形ができるようになっていきますから、やればやるほどおもしろく、自信もつけていくと思います。唯一、その都度変わってしまうのが “あたり”ですが、あたらなければ「なぜあたらないのか」を必死になって考えています。同期やコーチに見てもらったり、鏡を見たりビデオを撮ったり、細かいチェックをし合い、数ミリの違いを探究するところにもおもしろさを感じているようです。
ココロコミュ
明星学園の自由な校風の中で、厳しさやストイックな面もある弓道部を選ぶ部員たちに何か傾向はありますか。
平野先生
全体的には他の球技や走ったりする運動が苦手な生徒が多いです。部内ではよく冗談で「文化部的運動部」と言っています。中学のクラブ紹介でも「運動が苦手でも大丈夫です」という一言が伝統的になっていますね(笑)。筋肉の使い方に慣れていない生徒が多いので、それを射法八節でだんだん身につけていきます。中2くらいになると右肩ばかりが強くなる「弓道肩」になります。整体などに行くと「何をやるとこうなるんですか?」と聞かれるそうです。
先輩が後輩を見て育てる慣習を守っていってほしい
ココロコミュ
話を聞けば聞くほど、弓道は深いスポーツですね。
平野先生
弓道をやっていると、切り替えや集中力が絶対につくと思います。自分と向き合うスポーツで、試合となればひたすら普段やっている射をその場で出すことだけに集中します。そこに「あてなければ」という邪念が入るとあたらないのですが、そこがおもしろいと感じられたらやめられないのではないでしょうか。
ココロコミュ
今後の弓道部での目標はありますか。
平野先生
基本を大事にするクラブであり続けてほしいと思います。その結果として強くなり、強豪校の1校に見てもらえればいいですね。そして、先輩が細かいところまで後輩を見て育てていく慣習を守っていってほしいと思います。OBである大学生が来てくれることも、続けていきたいですね。去年完成した弓道場は奥行きもできたので、今までできなかった幅広い練習もしていきたいです。
 

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