明星学園中学校
ものづくりで得る柔軟な発想力と価値観

明星学園中学校では、週に2時間「木工・工芸」の授業があり、1クラスが2つに分けられて、半期(約12週)ごとに「木工」と「工芸」に取り組みます。「木工」では、7年(中学1年)で石材加工や木工加工を通して工具の使い方を学び、8年(中学2年)では木の器づくりに挑戦。9年生(中学3年)になるとデザインのプレゼンをして5~6人ずつのチームになり、卒業制作として家具を制作します。
子供たちならではの自由な発想を活かした、手を使ったものづくり。木材を加工し、アイデアを形にしていくという面倒で答えがない作業の中で、生徒たちは自分と向き合い、問いかけ、大きく成長していくといいます。他にはない木工の授業。その時間の持つ意味が、8年生の授業見学と担当の青柳先生への取材から見えてきました。

【REPORT】自分で考え、悩み、行動する木工授業

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たくさんの木に囲まれた木工室で

休み時間になると小学生が駆け回る中庭。木工室はその奥にある。教室前の大きなプラタナスの木の枝も、周辺に置かれた大小の木片も、すべて授業のための素材。先輩の作品もすっかり生徒たちの愛用品になっている。

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木のかたまりを自分のイメージする形に

卒業生の作品に囲まれた教室では、8年生の13人の生徒が木の器づくりに取り組んでいた。「自分らしさを形にしよう」「生活の中に何か一つ足すとしたら?」というテーマで考えたという器のアイデアをデザインに書き起こして、木のかたまりを自分の手を動かして作りたい形に加工していく。といっても、木を切り、削り、掘って、磨く...を繰り返してイメージ通りの形にするのは、簡単ではなさそうだ。決して慣れているとはいえない手つきで、ノミ、ナタ、カンナ、ヤスリなどの工具を扱って、少しずつていねいに作業に向かう生徒たち。

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マニュアルのない作業をやり切るのは自分

作業台の上には生徒が描いたデザイン図があるだけで、マニュアルは何もない。黒板にも簡単な木目についての説明が書かれているだけだ。生徒たちは、木を加工する難しさに直面しながら悩み、考えている。もちろん失敗もする。それをどう乗り越えるのか、どうすれば作りたいものに近づくかを考え、手を動かすのは自分自身だ。周りの友達の作業をじっと見つめたり、話しかけたり、青柳先生に質問しながら、また作業へと戻る。
ものづくりとは簡単ではなく、先を想像しないとうまく進まない。そのことを知った生徒たちが磨いた力が、9年生の家具づくりでの共同作業やより大きな作品への挑戦を可能にしていくのだろう。

【明星学園校内の木工作品】

「自分ってなんだ?」を考え、
モノとして表現するおもしろさを知ってほしい

-中学生で木工の授業は珍しいと思いますが、どういうきっかけで始まったのですか。

青柳先生:変わった授業ですよね(笑)。私は2代目で、前任の先生の時に台風で倒れた生徒の家の大きな桜の木を造園屋さんが運んでくれて、大きな素材を使ったものづくりが始まりました。それから50~60年になります。

-木工の授業は、7年生から3年間あるんですね。

青柳先生:7年生はクラス全員が通年で、8年・9年は1クラスを半分に分けて、前期・後期で木工と工芸を半年で作っています。本来の「技術・家庭科」を、明星独自で「木工・工芸」としているんですね。「木工」では、解体された家の木材を再利用したり、材木屋さんで製材されたものや原木を使ったりして、ものづくりをしています。9年ではグループでイスを制作しますが、中学生が5~6人で良いものを作ろうとアイデアを出し合い、相談しながら役割分担も決めて共同作業で作っていくことに大きな意味があると思いますね。

-7年生はどのような内容に取り組むのですか。

青柳先生:小さい石を削って自分のハンコを作り、その箱にハンコが入る穴を、ノミを使って彫ります。それが基礎の習得ですね。8年、9年は少人数で、作る大きさも質も発展させ、自分と向き合い、自分らしさを形にしていきます。「自分ってなんだ?」ということを考えさせると、それをモノとして表現することのおもしろさを生徒にわからせることができるのです。そこは実在がある強みですね。
実は今日の授業で作っていた器も、作業前に「自分がなぜこれを作ろうと思ったのか」を発表しています。自分で目標を作って、タイトルまで付けているので、できなかったとなると生徒たちは恥ずかしい。周りの目があるから頑張れるというのもあると思います。

-自分らしさを形にするというのは、例えばどんな作品になるのですか。

青柳先生:最近で印象に残っているのは、自分の手が携帯電話を置く台になった作品ですね。自分らしさがいっぱいの机の上に何か1つ足すとしたら、自分で一番大事に使っている携帯電話を置ける台と考えたようです。
生徒たちは、作品を作るためにいろいろ考えますが、根っこに何かがしっかりないと、マネをしただけの作品になります。最初のアプローチでは、曖昧で抽象的な形だったり、反対にきちっと作りたいという生徒がいたりしますが、根っこがしっかりしていればどちらもいい作品になります。そこがおもしろいところです。

青柳先生の印象の残った携帯電話を置く手は、中学生とは思えない技術が光る作品。

どう形容するかは、生徒なりに違う
答えのないことがものづくりの面白さ

-9年生は、グループ制作ですね。

青柳先生:8年で自分と向き合い、「個性が何か?」「普通とは何か?」などを考えます。中には「すごく普通でかっこいいね」という生徒もいます。いろんな価値観が出てきたうえで、9年になって共同作業に取り組みます。
そこではまず、家具の歴史や木と人との暮らし、イスの役割、日本の庭園のわびさびのほか、デザインのプロがどうやってデザインしているのかなども話します。そうした話を聞くことで、「左右対称でなくてもいいんだ!」とか、「本当にかっこいいものは何?」と考えられるようになっていくんです。思春期だからそういうことに敏感で興味がわくんですね。

-自分たちでもかっこいいものを考えられるんだ、となるわけですか。

青柳先生:実はシンメトリーや黄金比といった計算されている世界があるのですが、感覚的なものをどう刺激するかが大事なのでそういうことは言わないようにしています。空に雲があればそれをどう形容するかは、その生徒なりに違います。それがものづくりの面白さにつながりますし、他にはない時間です。あと、計算してできるというものではない。答えのない良さがあります。

-器づくりの授業途中には、「面倒くさい」という声も出ていましたが(笑)。

青柳先生:そうです、ものづくりは面倒くさいんです(笑)。ただ、例えばさっきの手のような作品を見せると、面倒くさいことを超えたら最終的にああいう形まで持っていけるんだと気づきます。
やはりこれだけ便利な世の中になっていますし、最短距離でやった方が楽でしょうけど、それだと何も見つけることができません。作品をひとつ作るのも簡単ではなく、やればやるほど思い通りにならないことも出てきます。その中で将来につながる自由で幅のある柔軟な発想を持った、しなやかな自分を作っていくのかなと思っています。

-確かに木は扱いが難しく、思う通りにはいかないものですから、柔軟に対応する力は鍛えられそうですね。

青柳先生:まっすぐ切れなかった、予定通りの線にできない。生徒はそこで心が折れてしまうのですが、それが普通です。1回でそんなにうまくいくわけがない。それにまっすぐじゃなければいけなかったのかというと、柔軟に考えればいくらでも違う発想が出てきます。人によって生き方やたどり着き方は違っていいと思うんです。アイデアを出すときも、悩んだり反対に勢いがついている時にやり続けるより、一回冷まして考えてみようと話しています。

先生からは簡単に手本を示すだけで、作業はすべて生徒自身に挑戦させる。

作品を作った自信
それが別の方向で伸びてもいい

-9年生での共同作業はどのように進めていくのですか。

青柳先生:こちらからは「座って気持ちがいい」とか「小学生の子供が喜ぶ」ぐらいしか言いません。デザインのアイデアを個々で考えて発表して、生徒たちが多数決でデザイナーを2人選びます。そのデザイナーを中心にした6人のグループを作り、自分たちのポリシーを反映した木工工房の名前やロゴも考えます。アートディレクターとか現場監督とか、いろいろ細かく役割もつけます。そうすると自分の役割が明確になって、関わり方も変わります。

-単にイスを作ることが目標ではなく、アイデアの組み立て方から共同作業まで丁寧にやっていくわけですね。

青柳先生:世界観を広げるという感じですね。主観がまだ曖昧な生徒を6人集めて、その科学反応を僕が楽しむような感覚です。
授業では、最初と最後の10分にミーティングをして、さらに反省会もやります。そこでみんなで向き合うと、友達に指摘されて翌週から人が変わったようになる生徒もいます。それが共同でやる良さでもありますね。グループごとに刺激を受けたり、お互いを意識し合ったりもします。あえて先輩が作った中で失敗したものも「これはなぜダメなのか。なぜ横揺れしてしまうのか」と見せ、「ここに一つ足りない」「ここに足すとうまくいく」と足し算に気づけるようにもしていきます。

-良さも、これだけ作品がたくさんあるとわかります。

青柳先生:作品を作ったことで自信を持ってくれる生徒もいますし、それが別の方向で伸びてくれてもいいんです。無我夢中になる時間がある。クラスの中に何人かそう思える生徒がいれば大成功かなと思います。

授業の最後には、それぞれの進度や技術を全員で総括。生徒たちも嬉しそう。

自分が心地よくあるために
どう行動して、発信するかが大切

-中学生の時に、木に触れ、自分でアイデアを考え、苦労して形にすることは、意味があると思われますか。

青柳先生:思いますね。本当に「自然」を理解しているのかなと自分自身が考えた時に、やはりもっと将来や未来につながるようなものを知らなくてはいけないし、それが教育の中になければいけないと思うんです。特に井の頭公園を抜けて登校してくる明星学園の生徒たちは、東京の学校でこれだけ素材があること自体がなかなか珍しく、とても恵まれていると思います。

-青柳先生としては、この授業で何を伝え続けたいですか。

青柳先生:日々少しでも生活をよくするためには、行動が必要だと思うんです。でも、なかなかそういうきっかけがないために、テストで評価されます。でも、もう少しこうしたゆとりがあってもいいのではないかと思うんです。北欧のフィンランドやスウェーデンの学校は、森に行ったり、木工をやっていたりします。僕は以前、ドイツに住んでいたのですが、ドイツ人も週末になると森に出かけ、自分のアトリエで創作するといったことを日常でやっています。時間や仕事に対する考え方も全然違います。

-木工の時間によってそういう気づきがあればいいですね。

青柳先生:そうですね。それが将来の自分をカスタムしていくことだよと言うと、生徒はわかってくれるんですよ。自分が心地いいというのは、人の評価とまたちょっと違いますよね。ものづくりは、学習してその情報を集めただけではできません。自分が心地よくあるために、どう行動して、どう発信するかが大切だと思います。

-明星学園のものづくりが少しわかった気がします。

青柳先生:生徒には、ものづくりでは多少の失敗は気にするなと毎回言っています。失敗を成長の糧と考えればいいんだよ、創作活動を通して何かを学んだのなら成功だし、大成功かどうかは自分で決めることだと。それを実感してくれる時があれば嬉しいですね。

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