田園調布学園中等部・高等部
数学科
先生インタビュー

生徒たちの視野を広げ、意味や面白さに気付かせる数学が面白い!田園調布学園中等部・高等部  細野智之先生
2017年に行われた「東京理科大学第10回<算数/数学・授業の達人>大賞」において、二度目の優秀賞を受賞された田園調布学園中等部・高等部の細野智之先生。算数/数学・授業の達人大賞は、「小・中・高等学校において、意欲的な実践・研究や創意あふれる指導により、優れた授業を実践した数学科の教員を顕彰」するというものです。細野先生は、いったいどのような数学授業で生徒たちに数学への興味をふくらませているのでしょうか。細野先生が目指す数学教育、数学科教諭としての目標など、数学に対する既存の意識を打ち砕くような意欲あふれる想いをうかがいました。

プロフィール

細野智之先生

田園調布学園中等部・高等部 数学科教諭。同校で教諭生活14年目を迎える。2017年度の第10回<算数/数学・授業の達人>大賞での優秀賞を、授業タイトル「いろいろな関数」(単元:「関数y=ax^2」)で受賞。2010年にも絵本「ふしぎなたね」を使った授業で同賞を受賞している。

改定前後のタクシー料金の変化を
グラフを書いて考える「関数」授業

― 「算数/数学・授業の達人」優秀賞を受賞されたような創意あふれる授業に取り組まれたきっかけは何だったのですか。
細野先生 本校の平常授業は1コマ65分です。他校よりも時間が長いぶん、教科書の学習をしていく中で演習やペアワークでの学び合いなど、生徒が学んだことを考えて理解を深める時間をきちんと取ることができます。そういった部分の発展として、1つのものをじっくり考えたり、試行錯誤しながら新しい考えに結びつけたりすることもできるのではないか。「こんなところに数学の力を使うんだ」という授業を、単元ごとに取り入れていきたいと考えていました。
僕がやろうと思っている授業には、2つの柱があります。1つは、ある程度授業で学習した後に、発展的な内容で生活と関連させて考えさせる授業。もう1つは、本校の生徒の中には数学に苦手意識を持っている子も多いので、「これから勉強することはそれほど難しくないんだ」とか「これくらいなら理解できる」という数学のハードルをちょっと下げるイメージでやる授業。発展的な工夫なのか、導入の工夫なのかという違いの2つの柱です。
― 今回、2度目の優秀賞を受賞された授業は、どのような内容になりますか。
細野先生 受賞したのは、中学2年の代数の「いろいろな関数」という単元で行ったものです。例えば、宅急便はサイズによって代金が変わり、1センチでも多いと100円上がり、グラフにすると途切れているグラフや階段状のグラフになりますが、こういったグラフになるものは、日常生活にも結構あるなと以前から思っていたのです。それを生徒にどう提示すれば、「なるほど」と理解してもらえるのかと考えていました。
そんな中、2017年2月から東京都のタクシー料金が改定されました。私自身が子供の頃タクシーに乗ったとき、目的地の直前で料金が上がることがあったので、子供ながらに不思議だなと思っていました。そこで、「改定前後で距離によって料金がどう変わったのかを比較する授業をやってみよう」と考えました。そこで、朝日新聞の記事を紹介して、授業の導入に持っていったんです。
実はこれをやろうと思ったきっかけはもう1つあって、その記事を書いた記者が本校の卒業生だったことでした。「これはやるしかない」と自分の中で盛り上がって、この授業をスタートさせました。
― 授業はどのように進めていったのですか。
細野先生 まずは具体的な距離でどう変わったのかを調べさせ、そこからグラフを書いてみようという形に持っていきました。実は、改定前は2000メートルまで730円で、280メートルごとに90円加算。改定後は1052メートルまで410円で、237メートルごとに80円加算となるので、そのままだと目盛りが細かくてすごく大変なんです。そこでグラフ用紙の目盛りを、280メートルや237メートルごとに打って、料金も90円と80円ごとに打っていくというふうに、生徒がグラフを書きやすい目盛を作って工夫しました。ただ、比較がしたいので縮尺は同じにし、重ねると距離や料金がぴったり一致するように作っています。
「これくらいの距離を乗るとこれくらいの料金がかかる」という具体的に見てほしいポイントを与えて、比較しやすくした授業を行いました。
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縦軸が料金、横軸が距離になったグラフ。
グラフを書いて調べれば、「この距離から料金が変わる」という数値がすぐわかる。

― 授業への反応はどのようなものでしたか。
細野先生 「そんなにタクシーに乗らないし」という生徒もいましたが(笑)、授業の最後ではタクシー会社が初乗り料金を下げた背景には、タクシー利用者数が減少して収益が上がらなくなっている問題を解消するという意図があったことも伝え、次の授業では「料金改定後1カ月たち、タクシーの利用客も増え、営業収入も増えた」という新聞記事を配布し、問題解消に効果があったことを知らせました。
他にも去年は2つともグラフを手書きしましたが、今年度から中学2年は1人1台ずつノートパソコンを持つことが決まったので、グラフをパソコン上で書くソフトを使えば画面で比較ができます。ICT機器も効果的に使うことで、生徒の発想がさらに広がっていくというのが、この授業に対する僕の展望です。

学校で数学を勉強する意味は、
生徒たちの視野を広げ、
数学の意味や面白さに気付かせること

― こうした独創的な授業のベースには、もっと数学の面白さに気づいてほしいという思いがあったのでしょうか。
細野先生 僕も、従来の授業が好きではなかったんです(笑)。昔は、先生が一方的に話をして、生徒は聞いているという授業が良しとされていましたが、数学の授業に関して言えばそれはずっと疑問でした。友達と話をしたり、独り言が出たりしながらの方が、生徒の頭が回り、考える力が付いてくるのではないかと新任の頃から思っていたんです。
だから僕の授業では、数学のことならしゃべってもいいと言い続けてきました。教科書を一方的に教える授業や答えを最短距離で教える授業は、その時の満足度は高いかもしれませんが、あとに残らない授業になってしまいます。でも、こんな授業なら、「新聞記事を読みながらやった授業だね」と昔の記憶を呼び戻すことにもつながるかなと思いました。
― アクティブラーニング的な授業でこそ、数学は活きますか。
細野先生 そうですね。授業を一生懸命聞こうとか、内容を考えようと思ったら、ブツブツ言ってしまうと思うんです。もちろん集中してやる生徒もいますからそれを否定するわけではありませんが、誰かの一言を聞いて、そういう考えがあるんだと気づくこともありますよね。
学校はクラスがあって一斉授業ですから、自分だけでは発見できないことに気付いてほしいと思います。だから相談もコソコソやるのではなく、大きな声でやりなさいと言っています。それも集団でやる学校授業の意味だと思いますね。
受験ということも意識しなければいけないので、学力を伸ばすことは必須なのですが、それだけでいいのであれば学校ではなく予備校でいいわけです。学校で数学を勉強する意味は、生徒たちの視野を広げ、数学の意味や面白さに気付かせて、自分から進んでもっと学ぼうとする姿勢を育てることです。僕はそういうことができる数学を面白いと思っています。
― その意味でも導入や発展は大事ですね。
細野先生 そうです。この分野をなぜ勉強しなくてはならないのかと思うじゃないですか。サイン・コサインはなぜ勉強しなくてはならないのかとか(笑)。その時に「こんなふうに使えるんだ。こんなふうに考え方が変わるんだ。だったらやってもいいかな」と思わせられたら勝ちかなと。そこは僕ら教員の腕の見せ所かなと思います。だから導入に漫画やパズルを使ったりすることで、面白がりながら考えてくれたらいいですね。
― 数学は、一度「難しい、苦手だ」と思うとなかなかイメージを変えられないし、生活に結びつきにくい科目だと思いがちですね。
細野先生 そうなんですよ。でも数学の面白さを紹介しておくと、いろいろなところに使えるという気づきにつながります。学力は自分で勉強しないとついていかないのですが、そのきっかけを授業の中で作ることができれば、女子の場合は男子よりもていねいに数式を解いたり、計算をしたり、考えたりします。
最近、理系は男子よりも女子の方が向いているのではないかと思っています。特に実験をしてデータを正確にていねいに取るところや、地道に同じ作業を根気よくやり続けるというのは女子の方が絶対に向いていると思いますね。

生徒に伝える「できるところまでやってみよう」
僕もそういうチャレンジを続けていきたい

― 先生がもともと数学科の教員になろうと思われたきっかけは何だったのですか。
細野先生 ずっといろんなことを勉強して、部活動もやってきて、人と人とのつながりが好きだなという思いがありました。学校が好きというよりは学校という空間が好きで、友達や部活があって、行ったら何となくのんびりできる空間が良かったんですね。そして数学だけは嫌だなと思った単元もなかったし、嫌いになったことが1回もなかったので、嫌いにならないことを職業にしたらいいのかなと思いました。
― 細野先生にとって、数学の教員は天職ですか。
細野先生 これは個人的なことですが、1学年200人の生徒がいる中に、1人か2人で良いので「大学の数学科に進みたい」と思ってもらえる子が出てくるといいなと思ってきました。6年間担任した8年前の生徒たちが卒業した時は数学科への進学者はいなかったのですが、その4年後に物理学科に進学した生徒が「数学の教師になる」と言って教育実習に来て、今は神奈川県の公立高校で教師をやっています。それは嬉しかったですね。
― 工夫した授業を作ることも楽しそうですね。
細野先生 継続できる授業も、生徒が単に遊んで終わってしまった授業もあるのですが、こういう授業を考えるのが僕は好きなんですね。学校が休みの日でも、何か授業に使えるネタがあったらいいな?と過ごしています(笑)。「これだ!」というものに出会ったら、回路がつながる感じでスイッチが入るんです。タクシーの授業も1~2週間で考えて実行した授業でした。
本校では生徒に「殻を破ってもらいたい」と常日頃言っているんですね。特に女子は「これくらいでいいや」と、できそうな目標を掲げがちですが、もっと上を目指してほしくて、「できるところまでやってみよう」と生徒に伝えていますから、僕もそういうチャレンジは続けていきたいなと思っています。2回目を受賞できたことは僕の中でも自信になりましたし、自分の中で良いと思ってアプローチした授業が、6年間で何千という授業を受けてきた卒業生から「ああいう授業ありましたよね」と言ってもらえる喜びは大きいです。

細野先生が授業で活用数学に興味を持たせるアイテム

左)絵本「ふしぎな たね」
1つ植えると2つ実がなり、1つ食べると1年間何も食べなくてもいいという不思議な実のお話。高校2年生の数列の授業の「漸化式」というテーマで使用。図書館とのコラボ授業だった。
「これは女子校だからできるのかなという授業です。漸化式という単元は生徒にとっては抽象的で理解しづらいので、絵本の内容だったら具体的に理解してもらいやすいかなと考えてやってみた授業です。題材が良かったこと、こういうアプローチはなかなかないということで、僕にとって1回目の『算数/数学・授業の達人大賞』優秀賞をいただきました」(細野先生)
上)ハノイの塔
円盤を移動させるゲーム「ハノイの塔」。円盤を1枚ずつしか動かせない、大きい円盤は小さい円盤の上に置けないという2つのルールをもとに、円盤を全部移動させられるかに挑戦するゲーム。絵本「ふしぎなたね」で漸化式を勉強してから、発展的な学習として高校2年で使用。
中)絵本「1つぶのおこめ」
王様が蓄えたお米を民衆に分け与えることになり、村娘がご褒美にお米を1粒、翌日には前日の倍、それを30日間毎日くださいとお願いしたら、お米がだんだん増えていったというインドの昔話。高校2年の「等比数列」の授業で使用。絵本を使う授業は毎年行っている。
右)デザイン定規

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小学生向けの体験授業で使用した「デザイン定規」。歯車の穴にペンを入れて円を描きながら回すときれいなデザインができる。
「どの歯車と台座を選ぶかで模様が決まるオモチャなんです。歯車と台座の歯の数の最小公倍数を使うことで、どんな模様になるかがわかります。例えばこういう花びらのデザインに最小公倍数がつながっているのだと伝えることができたら、算数が嫌いな小学生でもちょっとは好きになってくれるのかなと思っています。中学の授業にも応用できますし、曲線の長さを求めると高校3年生のサイクロイドとかアステロイドという円をぐるぐる回すとどんな軌跡を辿るかという分野にも応用できます」(細野先生)

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