【啓明学園中学校・高等学校】
人を支え、人を作る啓明学園の国際教育

人を支え、人を作る啓明学園の国際教育 国際理解教育ファイル 啓明学園中学校・高等学校
幼稚園、初等学校、中学校高等学校を有する東京都昭島市にある啓明学園。1940年の創立時より帰国生や外国籍の生徒を受け入れて、それぞれの生徒の言葉や文化を大切にした教育が行われてきました。現在、多くの学校が実施する国際教育、グローバル教育に先駆けて取り組まれてきた教育は、「国際学級」としてすでにスタイルが確立され他が真似できない充実した内容を誇り、啓明学園の教育の軸となっています。校内に国際生が30%以上在籍し、一般生と共に生活する啓明学園の学校生活。そこにある思いと、受け継がれてきた独自の教育の意味を、お二人の先生に語っていただきました。

Profile

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北原都美子先生

啓明学園の創立者である三井高維氏からの声掛けで、日本語と英語で教えられる数学科教員として啓明学園に従事。その後、他校での副校長や校長を歴任。5年前より啓明学園で、理事長・学園長・幼稚園園長として生徒たちを見守られている。

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山下一枝先生

啓明学園で日本語・国語科教員として帰国生の教育に携わり、現在は「国際学級」での授業のほか、国際教育部アドバイザーとして若い教員を指導。学外でも、帰国生教育や外国につながる子どもの教育関連の大学や教育機関での講演、パネルディスカッションで活躍されている。

啓明学園とはどのような思いで作られた学校なのか?
― 啓明学園は、帰国子女のために創設された学校で、海外からの帰国生や外国籍の生徒たちをサポートする「国際学級」があることが特色だと思います。この教育を受け継いできた啓明学園の根底には、どのような思いがあるのでしょうか。

北原先生
創立者の三井高維先生ご夫妻は、イギリスのオックスフォード大学に研究生として留学されていました。帰国の際、子どもたちを入れる学校で非常に困られました。しかし、子どもたちがイギリスで身につけた英語や異文化体験は、これからの時代に大事になるという先見の明を持たれていたのです。自分の子どもたちだけではなく、海外で働いている方が帰国した時に受け入れる学校が見つからないということ、また海外で得たものを大事にする教育が必要な時代が絶対にくるという信念のもと、1940年に本校を創立されました。
その信念は、今の時代にこそ求められています。各校がいろいろな表現で、国際教育、グローバル教育というものを行っています。本校も国際的な教育に取り組んだ学校として、グローバル教育を支えていかなければいけません。教育目標「世界に貢献する人を育成する」を、これからも変えることなく大事にして、生徒たちには本校で得た学びのもと、世界のリーダーに育ってほしいと思っています。

― 「国際学級」は、どのような考えのもと行われてきたのですか。

北原先生
それぞれの生徒が持っている母語やその国の文化を大事にする、育てるという思いからです。それを伸ばしながら、日本で生きていくなら必要な日本の教育もやっていきます。
中国から編入した生徒がいて、そのときに中国語の先生が校内にいらっしゃらなかったら、その生徒のためにお呼びして対応します。国際生一人ひとりが、教材も違えば時間割も異なり、15人いれば15種類の授業とテストが必要になりますから、教師は大変ですね。また、日本で生きていくだけでなく、育った国に帰らなければいけないという生徒もいますから、その場合は、自国に戻った時に困らないような指導もします。例えばアメリカに戻るときは、SAT(大学進学適性試験)の受験勉強が必要になり、その指導もしています。

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「国際学級」では、1人ずつに合わせた時間割を作成。力がついた生徒は一般クラスに移動して学習する教科も出てくるため、そのたびに時間割を組み変えて、1人ひとりの時間割を作っていく。

「国際学級」とは何か?
― では、「国際学級」の教育について、具体的にうかがえますか。

山下先生
本校は幼稚園から高校までありますが、全校生徒850名のうち国際生と呼ばれる生徒が30%以上在籍しています。1995年、「国際学級」は帰国生が75%、外国籍その他が25%だったのですが、2016年度に帰国生が50%、残り50%が外国籍の生徒、また親が国際結婚で複数家庭言語を持つ生徒や、国内インターナショナルスクールで勉強していたけれど中学からは日本の学校で学ばせたいというご家庭の子どもなどになりました。
特色のひとつは、混入方式であること。「国際学級」の先生だけが国際生を指導するのではなく、ホームルームは国際生と一般生が一緒にいるクラスに所属して活動します。
「国際学級」は学級という名がついているのでクラスのように思われがちですが、中高でのシステムの名前です。外国語は英語だけでなく、スペイン語、ドイツ語、フランス語、中国語、コリア語のクラスを設けています。その理由は、国際学級の生徒は母語が日本語ではない生徒がほとんどで、第一言語が英語で第二言語が日本語だったり、スペイン語だったり、2つか3つの言葉を持っているからです。そのどの言葉も大切にする、支えていくというのが、啓明学園の「国際学級」の考え方です。母語が英語なら英語を伸ばす、中国語なら中国語を伸ばす、そして日本語も一緒に伸ばすという教育を大切にしています。

― 大きな特色として「取り出し授業」というものがあるそうですね。

山下先生
「取り出しの授業」で、未学習領域の学習をサポートして、一般クラスに対応できる段階になれば一般クラスで学びます。国語・数学・社会・理科・高校の保健、それから外国語があります。
例えば、中学2年の生徒でも日本語が初級段階なら「取り出し授業」でそのレベルから学び始めます。数学、理科、社会も国際学級のスペースに来て「取り出し授業」で勉強しています。
また、ひらがなも書けず、挨拶くらいしか日本語ができないという生徒の場合は、日本語の入門からやっていかなければいけないため「日本語コース」を設定し、日本語をゼロからスタートします。
そういった状況なので、国際生にはそれぞれ一人ずつの時間割を作っています。学期ごとに一般クラスに移動させる教科も出てきますから、そのたびに時間割を組み変えます。

北原先生
「国際学級」では、各教科、入門から高3までのいろいろなレベルで学びます。内容がそれぞれ違っていても関係がないのです。世界中で用語が変わらない数学が、一番早く一般クラスに移動します。

山下先生
その次が理科で社会ですね。日本語・国語は、中1で入って卒業する頃にようやく追いついていくケースがあります。言語には生活言語と学習言語あって、買い物するとかお友達や家族と話をする生活言語は1、2年で習得できます。それに対して学習言語は5年から7年かかると言われています。その間を一人ひとりに合わせたさまざまな学習内容と方法で、子どもに寄り添って伸ばしていくことを、学校として大事にしています。

「国際学級」で安心感を与え、自己肯定感を育てる
― 子どもの頃は海外にいて英語で話していたのに、日本で生活しているうちに忘れてしまったという話も聞きますが、啓明学園ではそれが一番残念だとされているわけですね。

山下先生
それは、その子の世界を縮めるということです。海外で得たものを伸ばし、日本で得られるものも伸ばしていくというのが、子どもの将来のために一番必要だと思います。

北原先生
それが創立者三井先生の願いでもあります。幅広い知識を持って世界に貢献するのは、生徒自身の思いであり、私たちの願いでもあります。

山下先生
ただ、国際生たちはアイデンティティを築くことが大変です。多くの国際生の場合、日本は親にとってふるさとの場合が多いのですが、子どもにとっては外国。親はホッとすると言いますが、子どもはすごく緊張感を持っています。そういう子どもが「自分は何ものだろう」とアイデンティティを探して悩みます。結果、「私は私だ」「何ものでもない」という結論にたどり着くケースが多いです。

北原先生
それは両親が日本人でも同じです。親の仕事の関係で海外で生まれて育って高校になって戻ってきたら、日本の文化になかなか慣れないし、日本の学校のシステムにも慣れることが難しいのです。

山下先生
国際生は、自分から進んで日本に来ている子はほとんどいません。親の転勤や家庭の言語が2つ3つあって公立ではなかなかスムーズに教育を受けにくいというケースもあります。だから、なかなか日本を許し、認めてくれないんですね。高2の途中くらいで、自分を客観視できるようになってきて、アイデンティティが自分の中でも固まってきますから、その頃になるとようやく日本を許してくれて、こちらも安心します。

― そんな国際生にとって、「国際学級」はどんな場でありたいですか。

山下先生
「国際学級」が、居場所として安心感を与えられる環境であってほしいと常に思っています。そこで自己肯定感を持ってほしいのです。自己肯定感を持ち、仲間がいるということは、とても大事です。
公立校に行くとマイノリティになってしまいますが、本校のように30%以上の国際生がいるとマイノリティではありません。一般クラスに行くとちょっとおとなしくなる子もいますが、「国際学級」では自分が一番話しやすい言語で友達と話せる、ケンカできるというのが大事だと思っています。そういう言葉を支えることは、その子自身を支えること。つまり、言葉を支える=人を支えることだと思うのです。

― 「国際学級」があることは、校内にどのような影響を与えていますか。

山下先生
校内がグローバル化しているので、世界情勢の縮小版が再現されています。日本と韓国の関係や中国と台湾の関係が生徒に影響して、それぞれの国の生徒の間で言い合いになることもあります。そのときは「徹底的に話そう」と言って、いろんな国や文化、考えがあることを知り、お互いを認めあえるきっかけを求めて話し合いをさせます。

北原先生
そうやって、いろんな国の人と意見を戦わせることで、思考力や論理性が育ちます。それは今、世の中で求められていることですが、本校ではそれが校内でできるのです。
生徒たちには相手を認めて、論理的な思考を持ってほしいと思っています。そしてそれを土台に世界に貢献していってほしいと願っています。そのために一番大事なコミュニケーション能力を発揮する機会として、日本語弁論大会「私のメッセージ」や英語・外国語スピーチコンテストを位置付けています。校内で、自分の考えを伝えることが鍛えられるのです。

国際生と一般生が一緒に学ぶことの価値
― 国際生と一般生を1つのクラスにしてホームルームを行う「混入方式」にするのはなぜですか。

山下先生
混入方式のやり方を始めたのは、1972年だったと思います。理由は、国際生と一般生の双方にとっていいシステムだろうと考えられました。ずっと日本で暮らしている生徒にとっては異文化体験になるし、国際生はホームルームで日本語と日本文化の刺激を毎日受けるわけです。
その効果として、中学に入学した生徒が、体験学習でドイツに行って、ドイツ語が好きになって、啓明に在籍していたドイツの子と親しくなって、大学でドイツ語を学び、今はドイツに住んでいるというケースもあります。そういう形の刺激の受け方が、本校には至る所にあります。
日常的には、一般生が国際生に英語の宿題を教えてもらっていますね(笑)。国際生も日本語訳ができないので、「なんて言うの? 漢字ではどう書くの?」と聞いています。本当はやめてほしいのですが、「〇語で悪口はどう言うの?」といったことは早いですね。

北原先生
子どもたちで学び合うのが、「混入方式」の一番の良さですね。困った時も、助けてほしい時も、何か言わなければわからないから、ジェスチャーしながら、子どもたち同士で何とか話し合っている姿をよく見ます。幼稚園児でも、小さいうちからそういうことをやります。しゃべれないと相手からも話を聞き出せないから、コミュニケーション能力が高くなっていくのです。コミュニケーション能力がつき、幅広い知識が身についていくという点では、本校はどこにも負けていないと思います。

― 「国際学級」の卒業生は、どのような活躍をしている方が多いのですか。

山下先生
欧米はもちろん中国と日本の懸け橋になっていたり、タイと日本との懸け橋になっていたりなど、外国とつながりのある仕事に就いているケースが多いように思います。あとはマスコミ関係でアナウンサーになっている卒業生もいますね。ヨーロッパに行っている卒業生はパリで同窓会を開いて、アメリカはニューヨークやロサンゼルスで同窓会を開いていたこともありようです。学校としては、一人ひとりが自己実現していくということが大事だと考えていますから、それを支えていければと思います。

北原先生
小さい学校で卒業生がいっぱいいるわけではないのですが、そういう卒業生が世界でリーダーになっていってくれています。

創立時からの思いを受け継いだ誇りある教育
― お話を聞けば聞くほど、なかなかできない教育だと思いますが、「国際学級」というシステムを続けられる理由は何ですか。

北原先生
本校は「国際学級」があることで、相手を認める、相手の国の文化を理解することができる学校です。これは今、世の中が求めている教育です。いろんな国の生徒がいるなかで自然に身につくものは、一般生たちにも国際生たちにもとても大きいです。それは創立時から変わりません。
「国際学級」がある学校だということを理解して啓明に入ってきた一般生で、入学後半年でドイツに行った生徒がいます。そこで発表をして表彰されました。この学校を本当に理解してくれている卒業生は、そうやって入学してからどんどん伸びていきます。だから、この「国際学級」というシステムを変えるつもりはありませんし、最初からこのシステムを理解して啓明学園に入ってきていただきたいです。
これだけの教育は正直なかなかできないと思いますから、私は誇りを持ってやっています。いろんな学校に本校をご覧いただく機会がありますが、「これだけのことはできないから、うちはやっぱりできません」と、帰られます。生徒を受け入れてしまったけれど、結局退学させてしまったという事例も聞きました。その子どもが持ってきたものを大事にすれば絶対に育つと思うのですが、それができる環境がないとダメにしてしまいます。それは、すごく残念なことです。
私は、子どもをダメにしては絶対にいけないと思います。やはり子どもの将来は学校が支えていかなければいけない。どこで生きようが世界に貢献できるリーダーになってもらうために教育しなくてはいけないんです。

― 最後に、今の時代を生きる子どもたちに必要な力はどんなものだと思われますか。

北原先生
コミュニケーション能力を高めなければいけないと思います。そのためには基礎学力はもちろん大事ですが、英語がしゃべれればいい、中国語がしゃべれればいいというわけではありません。幅広い知識を持ち、論理性や的確な判断力が必要です。特にリーダーになろうと思ったら的確な判断力を持っていることを、社会が求めていると思います。
全体的には、今の子どもたちには少々失敗してもいいから突っ走れと思っています(笑)。困ったらこの学校に戻ってきてほしいですね。

山下先生
私は「国際学級」のことになりますが…「国際学級」の生徒はゼロではなくマイナスから出発するので、自分は何をやりたいんだろうと思えるようになって、それを探せる手段を持って、見つけられる力を身につけてほしいなと思っています。
この学校はそういうスタートの場所になります。この学校で土台を作って、手段を手に入れて、社会に出て行く。その中でこの学校で学んだことがエネルギーになり、他の人とつながって生きていけるようになってくれればと思っています。

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