【晃華学園中学校・高等学校】
感動の体験~能楽ワークショップ~

晃華学園中学校では、日本の伝統芸能への造詣を深め、物事への深い洞察力を学ぶために、中学3年生全員を対象に「能楽ワークショップ」を行っています。講師として能楽師を校内に招き、笛、小鼓・大鼓、太鼓といったお囃子や所作などを体験。最後に、能楽「船弁慶」の一部を鑑賞します。今年で7回目を迎えた晃華学園の「能楽ワークショップ」の様子を、ココロコミュEASTで取材しました。
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驚きにあふれる体験を通して
本物のすごさと奥深さを知る
晃華学園内のマリアンホールに集まった中学3年生。まずは能楽ワークショップの講師の先生方がお囃子を奏で、今日体験する各楽器を解説してくださいます。「できるのかな…」「あれ、たたいてみたい!」と無邪気な生徒たちの声。その後、5チームに分かれ、笛、小鼓(こつづみ)、大鼓(おおつづみ)、太鼓、所作のワークショップがスタートしました。

ふえ

10人ずつで体験した笛は、先生に「吹いてみて」と言われてもかすかな音しか鳴らず、生徒同士で思わず照れ笑い。「お腹からの長い息でゆっくり吹いて」と先生に言われて挑戦を続けますが、なかなか音が鳴りません。しかし、先生が持ち方を少し変えてくれるだけで、いきなり大きな音が…。正しい奏法の大切さを実感できた瞬間がたくさんありました。

小鼓

こつづみ

小鼓では「掛け声が大切」と言われ先生の手本を見せていただくものの、恥ずかしさからなかなか声が出せない生徒たち。小鼓の拍子を変えて打つなど、さまざまなチャレンジをくり返すうちに、自信がついたのか声も大きくなっていきました。「楽器と呼ばずにお道具と呼びます」「小鼓は若い革でも50年は経っています」など、教えていただいた能楽の知識にも興味津々です。

大鼓

おおつづみ

大鼓では、背筋と手を伸ばして円の外側をリラックスして声を出して打つ…と、先生に教えてもらったとおりに頑張りますが、音もかけ声もなかなかうまくは響きません。ただ、めずらしい楽器に触れることはすごく楽しそうで、自分たちの番でなくてもエアー練習をしてみたりと、とても熱心な姿がありました。

太鼓

たいこ

太鼓は、2本のバチでバチ革を打って演奏します。まずは、小さい打ち方と大きい打ち方や打つ時の姿勢を先生に見せていただき、順に生徒たちも挑戦しました。一番身近に感じる太鼓ですが、腕の形やバチ先のあて方などが難しく、簡単にはいかなかったようです。それだけに能楽師の技に感心した生徒たちからは、太鼓に関する質問も次々と飛び出しました。

所作

しょさ

所作の体験は、マリアンホールのステージで行います。14人ずつが1列になり、すり足や足拍子、顔をきるといった所作を習いました。楽器に比べて呑み込みがとても早く、数回習った一連の動きをつなげたあと、先生からほめられて大喜び。生徒1人だけがつけることを許していただいた面(おもて)も、滅多に近くで見ることのない貴重なもので、生徒たちの注目を集めていました。

船弁慶

鑑賞

かんしょう

最後はマリアンホールに集合して、能装束の説明と着付けのデモンストレーションが行われました。滅多にみられない「舞台裏」を垣間見られた貴重なひと時。早替えのためのアイデアなど、凝らされた工夫に感心の声があがります。その後、「船弁慶」を鑑賞。自分たちが体験した楽器がどのように使われ、能とはどのような表現なのかを、トータルでじっくり鑑賞することができました。中3全員が半日かけて体験した能楽ワークショップ。今日のさまざまな感動や興味・関心の芽生えが、生徒自身の世界を広げ、新たな挑戦へのきっかけにつながっていきます。
「能楽ワークショップ」講師
シテ方:亀井雄二、澤田宏司、藪克徳、辰巳大二郎(いずれも宝生流)
笛:藤田貴寛(一噌流)
小鼓:飯冨孔明(大倉流)
大鼓:大倉慶乃助(大倉流)
太鼓:林雄一郎(観世流)

能楽「船弁慶」とは…
登場人物は源義経、武蔵坊弁慶、静御前、平清盛など。兄・頼朝と仲違いし、西国に落ち延びる義経と弁慶の前に、過去に倒した平家の亡霊が現れる。
難しい囃子、やはりプロはすごい!
Oさん(中3)

私は小3から能楽を習い始め、中1の時には課外能楽に所属していました。以前囃子の笛を体験したときも難しかったが、今日のワークショップでも全く音が出ず、やはりプロの囃子方はすごいと実感しました。所作の体験で能面をつけた友達に感想を聞いたら、「足元がまったく見えないから、普通の人は絶対に踊れないと思う」と言っていたことも印象的でした。ただ能楽を鑑賞するだけでなく、学校で実際に体験できることはとても貴重だと思います。
晃華学園はユネスコスクールなので、国際交流や海外の文化に関する取り組みが多いです。海外の文化を知ることも大切ですが、このような体験を通して日本の文化について知り、その素晴らしさを伝えることも大切だと思います。私は中3の卒業論文で能をテーマに書きたいと思っていて、日本人も知らないような細かい点まで調べる予定です。機会があれば調べたことを海外の人にもわかりやすく伝えることができればと考えています。
想像をはるかに超えた、本物の迫力
Fさん(中3)

私は能楽の楽器などを実際に体験したことはなかったので、今回のワークショップではすごく貴重な体験ができたと実感しています。なかでも大鼓の演奏が楽しかったです。大鼓を見た時は、叩いたらすぐにきれいな音が出るものだと予想していたのですが、プロの方とは音が全く違いました。何より叩いている自分の手に振動が直接伝わり、こんなに痛いのかという驚きが大きかったです。それだけに、自分でちゃんと音を出せた時は感動しました。最後に「船弁慶」という能の舞台を見せていただきました。やはり本物の迫力はすごくて、今まで想像していたものとはまったく違いました。お面の顔つきからも様々なことを学んだので、外国の方にも本物を見ていただきたいと思いました。
音楽の授業で合奏することがあるのですが、その時に先生からいつも「指揮者をちゃんと見なさい」と言われています。でも能の五人囃子の方々は指揮者がいらっしゃらなくて、演奏する方々だけで掛け声を行って息を合わせておられました。音楽を奏でるという点では西洋も日本も同じなのに、授業で習っている音楽とは違う音楽を学ばさせていただけました。
居合道と能、和の文化に共通する土台を知った!
Hさん(中3)

私は部活で「居合道同好会」に入っています。今日は居合道でやっている所作と、能楽でやっている所作を、同じ和のものとして比較できました。居合道同好会では指導してくださる先生から「“ゆっくり”を意識してください」と教わるのですが、今日の能の体験でも「ゆっくり」「落ち着いて動いて」と言われたので、日本文化は『ゆっくり落ち着いてやる』ということが土台にあるのかなと感じました。一番楽しかったのは笛の体験です。何回か吹いているうちにコツをつかめて、意外と普通に音が出ました。反対に苦労したのは太鼓で、太鼓の面の真ん中に狙いを定めて打つのが難しかったです。
最後に装束のつけ方を見せていただいたのですが、着物の袖に腕を通さず、袖を襟に見せるように表現している部分がありました。そういう点が、日本人ならではの知恵なのかなと感じました。他にもそういう点を自分で見つけ、きちんと調べて外国の方々に話せたらいいなと思います。
見るに留まらずに自分で体験すれば、世界が変わる
Yさん(中3)

私は学校の課外茶道で活動しているのですが、今回のワークショップで習った「すり足」など、茶道と似ている点が多いことに気づきました。学校のワークショップで得た体験が茶道でも生かせそうだと思います。今回、普段は目にする機会がない楽器ばかりで、実際に触れて体験できたのは貴重な体験です。一番難しかったのは笛で、なかなか音が出ませんでしたが、能楽師の方が角度を調整してくださったらちゃんと出ました。その音を聞いた時は、自分にもできたことに感動しました。
私は昨年中2の時に、オーストラリアに短期間ホームステイをしていました。その時茶道を披露したら、ホストファミリーがすごく喜んでくれたことを覚えています。日本人はもちろん、海外の方にとっても本物の能を見るのはすごく良いことだと思うし、見るに留まらずに自分で体験すれば世界が変わると思いました。
鑑賞だけでは伝えきれない魅力
体験できる「能楽ワークショップ
亀井雄二先生(シテ方)
能楽をテーマにしたワークショップは、単発なら他校でさせていただくこともありますが、継続して行うことはほとんどありません。学校側にご理解いただかないと実現はかなり困難ですね。晃華学園はその意味でとても積極的です。
このワークショップほど、能の様々な楽器に触れられる取り組みはないと思います。楽器の体験までやろうとすると時間がかかりすぎてしまうので、能の鑑賞で終わる学校が多いのです。それを、ここまで時間をかけて取り組んでいただけるのは私たちとしてもありがたいです。なぜなら、鑑賞だけではどうしても伝えきれない部分が残ってしまうからです。生徒さんに実際に楽器に触れてもらったり、型をやってもらったりすると、「自分でやると、先生と違う音が出るんだな」と違いもわかります。やってみないとわからないので、本物に触れることはとても大切だと思います。 能もお客様がいらっしゃらないと話にならない世界ですので、こうやって若い方々に触れてもらえるのは嬉しいです。ここから能に興味をもってファンになってくれたり、あるいは周りの人に能の魅力を伝えてもらえたりするといいですね。
本物に触れさせ、
ショックを与えるのが学校の役目
晃華学園中学校高等学校 教頭 安東 峰雄先生
「能楽ワークショップ」は7年前に始まりました。そもそものきっかけは講師として来ていただいている亀井雄二先生(シテ方)のお兄さんと私が、小学校でずっと友人だったことです。私は、小学校2年生の時に初めて能楽堂に行って彼の舞台を見て、すごくショックを受けました。まず初めて見た本物の能がすごかったこと、それから彼の普段と違う姿を見た衝撃は忘れられません。
そうした昔からのお付き合いがあり、本学がユネスコスクールということもあって、「いつか一緒に、学校で能の取り組みをやりたいね」と亀井雄二先生とも話していたのですが、それが実現したのが「能楽ワークショップ」です。私自身の経験から、生徒に良い意味でショックを受ける機会を与えてあげたいと考えていました。それは学校の役目だと思うのです。例えば好きなアイドルのコンサートだったら、生徒は自分で探してでも行くでしょう。でも能は、学校が関わっていかないと、知る機会さえないかもしれない。そういう、『とても素晴らしいのだけれども、自分だけでは出会いにくい体験』をさせてあげたいと思ったのです。
生徒たちによりビビッドな体験を与えられるように、ワークショップの内容も少しずつ変化させています。楽器や所作の体験は1年目から行っていましたが、4年ほど前からは、能楽師の方が舞台上で装束を身につける様子を見せてくださっています。能の鑑賞だけなら多くの学校が取り入れておられますが、楽器や所作の体験、そして装束を着るという舞台裏を垣間見られるのは、本学ならではの取り組みです。今では良い意味で「当たり前」になってきていていますし、能楽師の方々も本学の生徒をよく理解してくださっているので、いろいろなチャレンジができます。
能楽ワークショップの体験
今後のグローバル社会で活きてくるスキル
本学が能楽ワークショップに力を入れている理由の1つは、「日本には800年以上も続いている素晴らしい伝統文化があって、君たちはそれを受け継ぐ担い手なんだよ」と伝えるためでもあります。子どもたちに素晴らしい伝統をつないでいってもらいたい。さらに本学での能の体験をきっかけにして、他の文化に対しても興味が広がっていくのではないかと考えるからです。 実際にワークショップを始めてから、生徒たちに変化が表れてきました。奈良へ学習旅行に行った際に、春日大社で雅楽を鑑賞する機会があったのですが、神主さんから「この学校の生徒さんたちは聴く姿勢が違いますね」と言われました。これは嬉しかったですね。ワークショップを体験した生徒たちにとって、伝統芸能に対する壁が確実に低くなった、あるいはなくなったといえるでしょう。
また能楽ワークショップの体験は将来、生徒たちが海外を訪れた際に、コミュニケーションの手段として役立つのではないかと思います。例えば海外の方に、悲しみを表す能の動きを示して「日本には能という伝統芸能があって、悲しい時はこう表現するんですよ」と言えたら、話が広がりそうですよね。海外から学ぶことも必要ですが、日本文化を海外に向けて発信していく力は、今後のグローバル社会で活きてくるスキルになるはずです。
教育は子どもへの投資ではなく贈与
多くを体験・吸収して、豊かな人生を送ってほしい
能楽ワークショップに関しては、続けることの重要さを強く感じています。この取り組みをつないでいくこと自体が、とても価値のあることだと思うのです。お世話になっている能楽師の方々は、今後すごい存在になっていかれる方々です。数十年後、生徒たちは「こんなにすごい方々に教わったのか」とあらためて驚くはずです。大人になってから「中学生の時に見た能は、本当にいいものだったんだ」とわかるでしょう。
後になってわかるといえば、教育もそういうものではないでしょうか。難関大学への進学率や大企業への就職率などを重んじるだけが教育ではありません。人生の終わりにあたって「私はあの学校で学べて幸せだった」と思えるような、最後の最後にその良さがわかるものが、本当に良い教育ではないかと思います。教育は投資ではなく贈与なので、リターンを期待しても返ってくるものではないでしょう。このワークショップに関しても目先の効果より、歳を取ってから「私は若い時に、晃華学園で能を見られて良かった」と、その魅力や感動を語ってもらえれば嬉しいですね。

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