【国学院大学久我山中学校】
授業・教育
「久我山周辺地域探訪」

五感を使ってフィールドワーク
なぜ?を育てる『久我山周辺地域探訪』
国学院大学久我山中学校では、中学1年生を対象としたフィールドワーク『久我山周辺地域探訪』を毎年行っています。クラスごとに学校から飛び出し、学校周辺の歴史的、文化的な場所を巡り、自分の目で見て触れておおいに考える貴重な時間。恒例行事として男子部にも女子部にもすっかり根付いた『久我山周辺地域探訪』が同校で大切にされている理由を、探訪への同行と、先生方への取材で探してみました。
REPORT
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この場所になぜあるのだろう?
どういう意味があるのだろう?
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取材日の『地域探訪』は、男子部の中学1年3組。出発前に担当の吉井先生から「歩道のない道を通るから気をつけて」「水分補給は各自でしっかりと」などと、いくつかの注意事項が伝達される。ただ、話を聞いているのは入学から数ヶ月の中1。43名の生徒たちからは、いつもの授業とは異なる興奮と学外へ出かける緊張がもれ伝わってくる。 まずは、関東大震災時に都心から移転してきた大小の寺院が集まる寺院通りにある妙壽寺へ。新緑豊かな境内では、震災時に破損したまま移された「割れ鐘」や宮沢賢治の詩碑を見学する。「雨ニモマケズ、風ニモマケズ…」というおなじみの詩の最後に、なぜ「南無妙法蓮華経」が書かれているのか。穴の開いた鐘にはどんな歴史があるのか。吉井先生や紅野先生からの解説を聞いて熱心にメモを取る生徒たち。教科書の中ではなく、目の前にあるものを見ながらの話は、多少難しくても生徒たちの興味をそそるようだ。
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いつもは見過ごす場所で、
気になるものを発見!
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次に浮世絵師、喜多川歌麿の墓所がある専光寺へ向かう。車が近づけば大声で伝達し合い、みんなで安全確認。集団でにぎやかに歩く生徒もいれば、一人で黙々と歩く生徒もいるが、普段は通らない道を歩いて探索することの楽しさにあふれている。専光寺では、歌麿のお墓の前で説明を聞いた後、各自で専光寺を探索。『地域探訪』では、事後学習用にカメラの持参が認められていて、生徒たちは興味を持ったものを自由に撮影できる。使い慣れないカメラの扱いに四苦八苦している生徒もいたが、それも貴重な体験。説明で話題にあがったものをいろいろな角度から撮影したり、「これ、おもしろい」と友達に教えて撮りあったりと、歴史や場所を知る以外の発見や収獲も大きいようだ。
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社会科だけではなく、
国語科も理科も一緒に学べる
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寺町の最後は世田谷百景にも選ばれている高源院へ。鴨池の上の浮御堂が美しい寺院で、お堂につながる赤い橋を嬉々としてわたる生徒たち。祀られている弁財天や七福神の話から、鴨池の地下水や水面を覆うさまざまな植物の話など、教科を限定しない話題だが生徒たちも楽しそうに聞き入っている。池を覗き込み亀や鯉を見つけて盛り上がるのは、男子ならではの姿。女子と男子では『地域探訪』での視点や興味の広がりも少し違ったものになるようだ。
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現場での発見・疑問は、
調べ学習で総括
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次にめざしたのは、通学路から少し脇道にそれた自然豊かな玉川上水沿いの小路。玉川上水が人工物だとわかる理由や人喰い川と呼ばれるほどの激しい水量だったこと、言語学者の金田一京助博士によって建てられた「水難者慰霊碑」にまつわる話など、地理、歴史、地学、文学と多岐にわたる幅広い分野の解説が、両先生から行われる。生徒たちは興味深げに川を覗き込んだり、先生からの問いに答えたりと、『地域探訪』最後の場所だがまだまだ元気だ。上水のそばの慰霊碑やごみ取り柵が置かれた東京都久我山水衛所跡などポイント地点をしっかりと観察して、無事学校への帰路についた。この後、図書館で調べ学習をしてたくさんの発見をひとつにまとめるという。授業で習った内容を実際に確認し、行動しながら知識や興味の幅を広げていくことで、これから必要とされる学力を身につけられるフィールドワーク『久我山周辺地域探訪』。生徒たちの様子からは、中1でのこの取り組みを起点に、柔軟に探究心を伸ばしていくことが想像できた。
Teacher Interview
自分で見て感じて探究する力
その軸を中1段階から身につける『地域探訪』
吉井辰巳先生[社会・地歴公民科]
紅野雄一先生[国語科]
科目ごとの勉強は
知が統合されることを感じ取ってほしい
恒例行事になった『地域探訪』を通じて、生徒たちに感じてほしいことは何ですか。
吉井先生
『地域探訪』は、あくまでも学習の一環として、大学に通ずる学びの基本となるものだと思っています。生徒は中学受験をしてきたので、これまでは机に向かう勉強がメインであったと思いますが、将来、大学に進めば、学び方が変わってきます。自分で見て感じて探究することがこれから必要になってきます。その軸となる部分を、中1の段階から身につけてくれればと思うのです。 インプットの方法としては、授業で先生から聞くという聴覚での方法しか彼らはまだ知りません。ですから、視覚、触覚、嗅覚など五感を使って感じるという、多様なインプットの手段を知ってほしいです。そして、それをアウトプットする方法を知ることも必要ですから、『地域探訪』も行って終わりではなく、自分で見て、聞いて、調べて、学んだことをまとめるという力を求めています。だからこそ『地域探訪』は、生徒主導で行うことを大事にしています。
紅野先生
私は生徒に対して、「開かれた知の獲得」をより求めていきたいと思っています。学校でやる勉強というのは、国語科、社会科、数学科と科目ごとに分断して行われています。しかし、我々は国語の授業で、文章が読める力だけを育てたいわけではありません。理系分野に進む生徒もいるし、芸術分野、体育分野と進む道は多岐にわたるので、国語ではその基礎を育てていると思っています。科目ごとの勉強というのは、科目を離れた時こそ「知」が統合されていくようなものですから、『地域探訪』を通して、それを感じ取ってくれればいいなと思っています。 『地域探訪』は国語科・社会科でやっていますが、探索する中で歴史や文学はもちろん、たくさんの自然に触れていろいろと発見するチャンスもあります。科目に限定されない学びをしていってほしいです。
「なぜ」「どうして」という疑問を
より深く持てるように
『地域探訪』の前に事前学習も行われるそうですね。
紅野先生
探索で出てくるのは宮沢賢治と金田一京助だけですが、授業では久我山周辺だけではなく、武蔵野一帯を文学散歩のフィールドワークとして、太宰治、山本有三、野口雨情についての話も、国語科ではしています。『地域探訪』で金田一京助の話をした時に生徒が反応したのは、『片言をいうまで』という金田一京助のエッセイを授業でやるからです。その単元では、「今度行く地域探訪で、この人の話が出てくるからね」と伝えたり、「水難者慰霊碑」での娘のことも一緒に紹介したりします。
吉井先生
社会科では事前学習を1時間設けていますが、そこで扱えるのは場所の紹介だけなので、そこに通ずる宗教に対する考え方や、先ほどの玉川上水で説明した地形的に見た人工物である理由など、現地で話をしても生徒がすんなりと吸収できるような土台を、ここまでの2か月間をかけて授業でやっていきます。『地域探訪』では、“そこにそれがあること”に驚いてほしくないのです。そこにそれがあるという“存在”は知った上で、“なぜそこにあるのか”という理由を考えてほしいと思っています。そのための事前学習ですね。事前学習がないと、「ああ、ここに妙寿寺があるのか」「ここに池があるのか」「ここに歌麿の墓があるのか」と、存在だけに驚いて終わってしまいます。事前学習で存在については先に伝えておいて、本番では「なぜそこにあるのか」という理由を具体的に述べるようにする。そうすることで、そこから生徒たちに「なぜ」「どうして」という疑問をより深く持ってもらえるようにと考えています。
現地でこそ感じられることはたくさんありますね。中1での『地域探訪』の体験が、
その後の成長に繋がっていると実感されることはありますか。
吉井先生
外を見る見方が変わってくるように思います。今までそこに山がある、川が流れているといったことを、ただ見ているだけだったものが、「どうしてこうなっているのだろう」という好奇心を持った見方に繋がっていくんです。
紅野先生
それに本校は中高一貫なので、例えば高校生になった時の授業で、「それは、地域探訪のときに見てきた」というような声があがったりもします。授業は教科書の中だけで行うものだけではないということが、知らず知らずのうちに身についているように思います。
教科横断型の授業として
もっと発展させた地域探訪に
生徒たちは元気に探索していましたが、
『地域探訪』で国学院久我山の生徒たちらしさを感じられるところはありますか。
吉井先生
人間的にも生活面的にもしっかりしている生徒が多く、『地域探訪』では我々教員が助けられる点もあります。みんなすごく真面目に取り組んでくれます。学年によっても違いますが、基本的にはクラスの中にリーダーシップを取れる生徒がいるので、その子たちが我々に協力してくれて、声をかけてくれるんです。こういう行事は、どちらかというと男子のほうが楽しそうですね。女子も楽しんでいるとは思いますが、普段の勉強の延長という要素を少し深く考えすぎているのかなとも思います。男子はその点、勉強と単純な楽しさをうまく繋げますね。『地域探訪』の目的は、むしろそちらなので、女子には「純粋に楽しんでいいよ」とあえて伝えます。
紅野先生
私は、久我山の生徒は知的好奇心が高いなと思っています。今日も解説をしている中で必死にメモを取っている生徒がいましたが、そういった学ぶことの楽しさがわかっている生徒が多いです。
恒例行事になった『地域探訪』。今後の発展もありますか。
紅野先生
現在は、この授業の発展形として、生徒たちが英語を使って留学生に案内する『英語で地域探訪』を希望者向けプログラムとして行っています。国語科と社会科、そして英語科も含めた文系行事として存在しているので、もう少し理系要素が入ると、さらに広がりをもてると思っています。
吉井先生
僕も紅野先生と同様に、国語科と社会科という括りで固まらず、もう少し全教科横断型の行事として広げていければいいですね。また、内容的には、授業で学んできたことが「こういうふうに使えるんだ」と生徒に思ってもらえるような復習的要素も入れていきたいと思っています。例えば今年も、社会科では1学期の4月に地形図の読図を学びますが、実際の地形図を『地域探訪』の所々で生徒に「今、ここだよ」と見せました。地形図にはお寺の場所にはお寺の地図記号があったり、高源院の池はちゃんと水色で描いてあったり、「地図と同じように本当にあるんだ」と納得できます。今まで自分が勉強してきたことは間違っていなかったと思えますから、そういった勉強の真の意味を感じられる行事にもしていきたいです。

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