立教女学院中学校・高等学校
自学自習能力を養うARE学習

rikkyo_top立教女学院中学校・高等学校の「ARE学習」は、すでに10年以上続く同校独自の学びです。自ら疑問を持ち、そのテーマを徹底的に調べて、発表することを通して、これからの人生で必要な土台となる力を中高6年間かけて育んでいく生徒たち。その学びは、高3で1年をかけて制作される卒業論文で完成を迎えるのではなく、人生における自信や糧にして生かし続けていくことを目指しています。社会から注目を集め、同校が誇りをもって取り組む「ARE学習」について、主任として指導される高橋育子先生を取材しました。

ARE学習とは?

rikkyo_ill

※3つの英単語の頭文字から命名。
※立教大学へ推薦の生徒は必修科目。受験生でも選択科目として履修する生徒もいる。

 

rikkyo_img1

ARE授業の様子。少人数で行われる。

他者の意見や考えに気づかせる

中学での「ARE学習」は、自分の身近なものから問題を見つけ、調べて発表することから始めます。学年が上がると環境や科学の問題、平和や福祉の分野にも取り組み、その中で調べ方や発表にもいろいろなアプローチの形があることを覚えていきます。中学の「ARE学習」で大切にしていることは、他の生徒の発表を見て、生育環境の違う他者の意見や考えに気づかせることです。そして、「このような発表をしたら、どう思われるかな」と不安に感じさせない、発表や発言ができる環境づくりを心掛けています。

 

授業プリント。毎週、アウトラインや仮説などの課題が出され、生徒は記入していく。

 

自分と向き合い、テーマを掘り下げる

外部に向けて公開行事「高3論文発表会」(※1)も行っていますから、生徒は中学の頃から卒業論文を書くことが意識の中にあるようです。高1、高2は卒業論文の準備段階になりますので、オリエンテーションを行い、高3の先輩のプレゼンテーションを聞く機会を設けています。
また、卒論制作に入るのは高3からですが、高2になるとテーマを考え始めます。まずは自分と向き合って、テーマをいくつかあげて、それについて調べます。テーマの選び方はいろいろですが、どこかで自分と結びついている引っかかりがあるものを選んでいますね。
テーマ選びは重要です。卒論には長期間をかけて取り組みますから、自分が本当に気になるもので、途中で嫌になっても「やっぱり知りたい。どうしてもこのままにしたくない」と思えるものでなければ続かないのです。自分自身と向き合ってテーマを選び、今後生きていくうえでの土台としてほしいと思っていますので、テーマを限定することはせずに、本人の「知りたい」という意欲を大切にしています。

これまでの卒業論文テーマ<抜粋>

○ 「なぜYouTubeは音楽流通手段として普及したのか」(2015)
○ 「なぜ漫画の二次創作は合法的かつ合理的で安定した活動とならないのか」(2015)
○ 「なぜ『ロミオとジュリエット』の物語は二人の死で終わるのか」(2014)
○ 「日本で紙媒体の新聞購読の減少幅が小さいのはなぜか」(2014)
○ 「なぜ今米飯給食がすすめられているのか」(2014)
○ 「在原業平は なぜ長い間多くの日本人から愛されてきたのか」(2013)
○ 「なぜ いま日本の手づくり弁当がBENTOとして海外で受け入れられているのか」(2013)
○ 「なぜ 日本の国家的インテリジェンス能力は低いのか」(2013)
○ 「ハロウィンがアメリカで広まった理由~なぜハロウィンはアメリカで広まったのか~」(2012)
○ 「安倍晴明の知名度が高い理由~賀茂保憲はなぜ安倍晴明より知名度が低いのか~」(2012)
○ 「日本の高校における化学教育の問題点~高校の化学と大学の化学で断絶が生じるのはなぜか~」(2012)
○ 「タイにニューハーフが多い理由」(2011)
○ 「ハローキティの国境を超えた人気の理由」(2011)
○ 「民族融合を果たしたシンガポール」(2011)
○ 「歌詞に垣間見るマイケル・ジャクソンはどのような人物か」(2010)

 

突き詰めてさらに考えてつかみとっていく

高3の途中で「ドラフト論文」という草稿を出させ、中間発表も行いますが、まだまだ未熟だったり、事実としておかしい部分があったりします。ここで教員が朱を入れ指摘をしていきますが、自分自身でも論文や発表を客観的に見直す作業も同時に行います。一度完成したと思ったものでも、時間をおいて客観的に見直していくと、まだまだ考える余地がある、ということがわかるのです。さらに本論文のプレゼンテーション時には発表者のスキルが上がるのはもちろんですが、聴き手にコメント力をつけるという意味でも、クラスメイトの論文の良い点と悪い点を具体的に指摘する「コメントカード」を書かせています。それを、指摘された側は必ず改善点を書いて今後につなげるのです。そうすると論文がすごく良くなります。発表も他の人のものを見れば見るほどレベルが上がっていきます。「本当にそうなのか」「これでいいのか」と突き詰めていって、そこからさらに考え、つかみとっていくということを1年間かけてやっていきます。

 

全員に配布される卒業論文集とARE学習カルテ。ARE学習カルテは、生徒と教員の交換日記のようなもの。
作業内容や進行状況を記入し、担任の先生に提出してアドバイスを受けることで、他者の視点や考えを知り、方向性を探っていく。

 

この経験が自信となって人生を支える

「ARE学習」を通して、生徒が自分自身の中にある知的好奇心に気づくことは、大切なことだと思っています。それと人生は自分の思い通りに進むわけではありませんから、途中で挫折したり壁にぶつかったりすることも大切で、そのときにあきらめずに考え直せることに意味があると思うのです。
個人的な話になりますが、以前、本校が行っている「土曜集会」(※2)で、東北の河北新報の福島の総局長の方が、東日本大震災で家族も家も失い、たった一人だけ生き残った女子高生の話をしてくださったんですね。それまでは、現代の日本ではそのようなことは起こりえないとどこかで思っていたのですが、その話を聞いて目の前にいる生徒たちもその女子高生と同じようにすべてを失ってもおかしくないんだと気づきました。
「では、私はこの生徒たちに何ができるだろう」と考えたときに、何もないところから作り上げる力や、氾濫する情報からきちんとしたものを見抜ける力をつけることが、彼女たちが生きていく糧になるだろうと思ったのです。何事も起こらないことが望ましいのですが、たとえすべてを失うことがあっても、自分自身の中に身につけた力だけは誰にも奪えません。それ以来「ARE学習」や卒論制作にはそうしたことを学んでもらえたらと思って取り組んでいます。

 

 

“知”として継承される先輩の姿

 “知”というものは目には見えないのですが、伝承していくものなのだと感じます。卒業論文のプレゼンテーションや卒業論文集を見た下級生は、先輩の姿に自分の将来像を描き、自分も高い意欲を持って取り組んでいきます。先輩は何よりの教材なのです。
「ARE学習」も10年以上やってきましたので、生徒が育ち、社会と結びついて、いろいろなところから声を掛けていただくようになりました。論文発表会で生徒の発表を聞かれた受験希望者の保護者から、これを人権問題の資料として使いたいと申し出があり、その後様々な企業でその論文やデータが読まれたり、取材に行った企業に誘われてシンポジウムで発表する機会をいただいたりしたこともあります。高校生が本気で取り組んだ論文に、さまざまな方面から反響をいただき、生徒のその後の活躍にもつながっています。

これからの時代はますますコンピュータの存在感が増してくると思います。しかし、それらとは違うことを考えられる“人”でなければならないと思うのです。そういう視点や考え方を身につけられる時間としても、さらに「ARE学習」に取り組んでいきたいですね。

 

高3論文発表会より。

※1公開行事「高3論文発表会」
毎年3月に行われる恒例の公開行事。受験希望者と保護者が来校して、高校3年の卒業論文プレゼンテーション発表を聞く。他に卒業生からのメッセージもあり、立教女学院中学校・高等学校での学びによって大学生活や未来がどのように開けていくのかをリアルに知ることができる貴重な機会になっている。

※2「土曜集会」
課題と向き合い、深く考えることを目標に、他分野のゲストを招いての講演会や、生徒参加のプログラムを年間10回ほど行っている。1つの「土曜集会」のテーマについて、時間をかけて多彩な角度からアプローチする機会を3回設けていて、「土曜集会」でいろいろな世界を知ることも「ARE学習」につながっている。

 


SCHOOL DATA
立教女学院中学校・高等学校
東京都杉並区久我山4-29-60
TEL.03-3334-5103

http://hs.rikkyojogakuin.ac.jp
 

この記事が気に入ったら
いいね ! しよう

Twitter で