藤村女子中学・高等学校
ボーカロイドを使って作曲
先駆的音楽授業

日本で初めて「ボーカロイド」を導入しました。
ボーカロイドとはパソコンで音符と歌詞を入力して歌声を作る歌声合成技術のことで、
同校では高校1年の2学期にボーカロイドを使って曲を創作する授業を行っています。
今回は音楽科の砂山瑞穂先生に、ボーカロイド導入授業について取材しました。
ボーカロイドとはパソコンで音符と歌詞を入力して歌声を作る歌声合成技術のことで、同校では高校1年の2学期にボーカロイドを使って曲を創作する授業を行っています。
今回は音楽科の砂山瑞穂先生に、ボーカロイド導入授業について取材しました。

砂山先生が赴任された3年前から音楽の授業で、ボーカロイドを取り入れることになったそうですね。そのきっかけや理由を教えてください。
「本校の芸術科目は美術、音楽、書道からの選択で、高1では週1回2時間連続授業があります。音楽では、「歌唱」「器楽」「創作」「鑑賞」を学習します。音楽で「創作」というと「作曲」になるのですが、「創作」といっても、やはり曲を作ることは、ギターや鍵盤といった楽器のスキルや理論がないと、まとまりのある曲らしい曲を作るのはなかなか厳しいんですね。
しかし、本校の生徒たちがボーカロイドを使って作る曲は、約3分半です。最初は大丈夫かなと心配しましたが、生徒たちは小さいときからいろいろな音楽を聴いていて耳が良く、ぶつかっている音や汚い音にはすぐ気づき、実は頭の中で理論ができています。コンピュータを使って音を入れれば、「これは違うから1つ下の音にしてみよう」と修正をしたり、「長すぎるから少し減らしてみよう」と短くしたりすることが感覚的にでき、曲っぽい曲を作ることができるのです。」

ボーカロイドを使えば、頭に浮かんだフレーズを音符が書けなくても曲にできるのですか。
そうなんです。ボーカロイドは棒線で音を入力していきますが、棒線が短ければ短い音符になり、棒線が長いと長い音符になります。棒を上にすれば高い音になり、下にすれば低い音になりますから、かなり感覚的に作ることができます。
4分音符とか8分音符を理解したり、ドレミが読めたりしなくても、自分で一度適当な場所に棒をおいてみて「これは短すぎて嫌だ」と思えば棒を伸ばせば良く、「音が低すぎる」と思えば棒を上にずらせば良いので、どんどんメロディーができていくんです。
ボーカロイドだとできるかなと思ったのは、ここが大きいですね。

伴奏のデータを取り込み、それを聴きながら作業する。鍵盤が縦になっていて、上が高い音、下が低い音。棒の長さによって、音が短くなったり長くなったりする。
画面だと「ど」「れ」「み」「ふぁ」と歌う声が聞こえる。
「ボーカロイド」と聞くと初音ミクが有名ですね。
「ボーカロイド」は歌声を編集するソフトで、声のソフトは別に必要になり、それに初音ミクの声とかいろんな種類があるんです。
同じ「あ」でも声色が違います。本校では、半分の生徒が男性の声のソフトを、半分の生徒が女性の声のソフトを使っています。

実際に、授業はどのように進められているのですか。
まずはコードの勉強をします。Cのコードならドミソを表し、その部分の伴奏はドミソが流れているということなんですね。授業ではメロディーと歌詞を作ることが目標なので、私が作った同じ伴奏を全員に渡して、生徒はそれを聴きながらメロディーを作っていきます。コードを知っていると、どの音が良いかわからないときも、伴奏のコードから音を選べば絶対に変な音にはなりません。そうして2学期中に全員が1曲を作り上げますが、おもしろかったのは全く同じ伴奏を全員に渡しても、70人ぐらいの受講生がいれば70通りの曲ができることです。
■ボーカロイド作品1 「卒業」
■ボーカロイド作品2 「たいせつ」
全然違うんですね。
そうなんです。初めて作曲していますし、中には譜面を読むのが苦手な生徒もいますが、伴奏があればそうであっても、曲らしい曲ができるというのは私にも大きな発見でした。 授業では最後に優秀な作品の5、6曲を譜面に起こして、クラスで歌います。
パソコンを使って、音符と歌詞を入力していくとのことですが、音楽の授業でパソコンやソフトを使うことに難しさはなかったのですか。
本校は情報の授業が高校2年であるので、パソコンやソフトの基礎から説明するとなると、本来の音楽の授業内容とは別のところで時間を取られてしまうと心配していたんです。でも、生徒たちは思ったよりパソコンが使えましたし、「ボーカロイド」の作業画面はシンプルなので、鍵盤について少し指導すれば、あとはスムーズでした。
![ボーカロイドを使った作曲の説明を行う砂山瑞穂先生[音楽科教諭]](https://cocorocomeast.com/wp-content/uploads/2016/06/photo04.jpg)
パソコンやソフトを使って取り組むことも、この授業でのもう一つの意味かもしれませんね。
ドラッグ&ドロップをしたり、ワードやエクセルと同じような「Ctrl」+「C」とか「Ctrl」+「V」といったショートカットも「ボーカロイド」で使いますから、他のソフトでも使えるスキルを使いこなせるようになるメリットもあると思います。


歌詞のテーマは決まっているのですか。
何でもいいと言っています。今年は伴奏のコード進行を合唱っぽくしたので、卒業をテーマにした歌詞が多かったのですが、アイスや餃子のことを歌詞にした生徒もいました。
作品を作るうえで大切にしてほしいことはありますか。
思いやイメージを形に残すことの意味を考えてほしいと思っています。芸術科目でも美術と書道は自分の作品が残りますが、音楽は自分の作品として残ることは少ないです。でも、音楽を選択した生徒にも、高校生のときの自分の作品を何か持って帰ってもらいたいと思ったので、「創る」という意味での音楽、「残す」という意味での音楽を、この「ボーカロイド」授業でやれたらと思っています。

「ボーカロイド」の授業が生徒を成長させたと思われる部分は?
細かい作業で煮詰まっていることも多いのですが、友達の作品を聞いて「そういう発想があるんだ」と気づくことや、最初は照れながらも自分の思いを込めて1曲を作りあげていくということがかなり貴重な体験になっていると思います。
今後「ボーカロイド」授業で挑戦したいことはありますか。
生徒が伴奏を作れるように、そして外部への配信やコンテストへ応募をしていきたいと思います。ちょうど今年で3年になり、作品も150曲ほどたまってきましたので、本校のHPに載せて聴けるようにしようとしているところです。生徒の希望からボーカロイド研究会もでき、この「ボーカロイド」授業を目的に本校に入ってきてくれた生徒もいます。生徒の心に残り、作品としても残るものを作ることができるよう、続けていけたらと思います。