【清泉女学院中学高等学校】
環境を活かした独自の理科教育

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清泉女学院中学高等学校は、1512(永正9)年に築城された玉縄城跡の高台にあります。展望の良さだけでなく、自然の豊かさも随一で、この環境を活かした教育が積極的に取り入れられています。最たる科目は、実験・観察を重視した理科。理科野外学習は中学1年から校内でスタートします。身近な自然に触れ、本物を見ることを通しての学びを修得する清泉女学院中学高等学校独自の理科教育を、担当の先生に教えていただきました。
理科教諭
Profile
池上裕子先生
理科教諭。専門は生物。
高校の生物を主に、
高校2年の地学基礎も担当。
清泉女学院中学高等学校の卒業生。
小林建介先生
理科教諭。専門は生物。
清泉女学院には3年前に赴任。
中学の理科全般を担当する。
触れる機会を重視する
実物主義の理科教育
ー 清泉女学院の大切にする理科教育とは、どのようなものだとお考えですか。
池上先生:清泉の理科教育は、実験や観察を通して理解を深めていくところに大きなポイントがあると思っています。実験や観察に関しては、できるだけ本物を見られるようにすることを大切に、見せるだけではなく生徒が実際に手を動かすこと、材料に触れるだけではなく五感をフル活用できるような内容を目指しています。実物がなければそれに近い教材を使い、授業では生徒の感性に触れるような一言をプラスして内容が印象に残るように努める。そして生徒の理解がより深まるといいなと思っています。他にも、本校には模型がいろいろあるので本物が見られない時には模型を使い、映像もできるだけ多く取り入れることを意識しています。
小林先生:本校の理科のポイントは、実物に触れる機会を徹底的に重視する実物主義であるところです。今年は新型コロナウイルスの影響でできなかったのですが、通常は中学1年から桜やタンポポなどの実物を校内で採ってきて、それを一人ひとりが分解します。実験を盛んにやっている学校は他にもありますが、本校の圧倒的な強みは校内に自然がたくさんあるということ。校内を生徒と歩き回って、教材を集めることができるんです。そういった実物との触れ合いに実際の作業を伴いながら理科学習を進めていくのが、本校の理科の非常に大きな特徴です。 例えば今年は、分散登校期間中に「みんなで植物を採りに行こう」と校内を歩き回って、それを各自が家で観察しました。そうすることで、目の前に教材をポンと出されるよりも、実際にどういう場所に生えているか、採る時の土の感触などを含めて生き物を見つめることができるんです。
― 校内で中学生一人ひとりが、タンポポを採ることができるのですか。
小林先生:採れますね(笑)。教材の確保という面では、桜も1人に1輪ありますから、非常に恵まれていると思います。校内で観察以前の段階を提供できるのです。 私は、実物を通じて相手を知ることがすごく大切だと思っていて、生徒に興味を持ってもらうために動画もよく使います。例えば授業で教材となる動植物を一緒に採りに行けなくても、僕が野山を歩き回って素材をかき集めている様子をあらかじめ動画に撮っておいて、「こういう努力の果てに、皆さんの目の前のこれがあります」と話をすると、やはり生徒の食いつきが違うんです。板書だけで説明していると生徒の魂が散歩していることがよくありますが(笑)、今の子は動画が大好きですから動画を流すとかなり注目してくれます。本校はIT機器の整備にも力を入れていて、理科の全教室には電子黒板があります。これをフル活用して、実物教材と動画による導入を並行して進めながら生徒を授業に引き込むということをやっています。

教養や視野の広さにも
つながる野外学習
理科野外学習
中学1年  校内の動植物の観察
中学2年  箱根の地形や大涌谷の火山を体感
中学3年  三浦半島・城ヶ島で動物や地層を観察
高校1年  神奈川県・真鶴の照葉樹林と箱根の夏緑樹林の観察
― 中学1年から高校1年まで毎年行われる理科野外学習はどのような内容ですか。
池上先生:本校で長年続いているもので、オリジナルのテキストとフィールドノートを使って学習します。 野外学習には、環境に適したものが生息していることや形になっていることがわかるという大きな意味があります。理科をあまり得意としない生徒でも、現地に出向くことで興味を持つ貴重な機会にもなりますね。授業では事前学習に何時間か置いていますが、野外学習のための授業ではなく、例えば中2で火山に関係する学習をしている際に「実際の火山はどうなっているのだろう?」と考えている流れで箱根に行きます。
小林先生:高校生は理系・文系のどちらに進むかが定まってきつつある時期になりますが、文系に進む生徒が山に分け入って植物を見る機会は今後の人生でもそれほど多くはないと思うのです。そういう生徒たちも含めて、野外学習として学年全体に機会を提供するという意味は大きいですね。一緒に森の中に入って鳥の声を聞き、土の匂いを感じ、森の構造を意識するという経験を積むことは、教養や視野の広さにもつながります。
先生自作の野外学習テキストとフィールドノート。
― テキストやフィールドノートはどのような内容ですか。
池上先生:テキストには目的の場所に関係する情報などが書かれていて、これがあればいろんなところが歩けてフィールドワークができる1冊です。
小林先生:フィールドノートは中1から高1までにそれぞれあります。中1は授業でも使い、自分でスケッチしたり穴埋めをしたりして、それらは全部を採点します。
池上先生:他の学年は野外学習に行った時にメインで使います。現地ではメモ程度に書いておいて、それを後でフィールドノートに復習しながらまとめていくというのが一番理想のスタイルですね。
中3 理科野外学習(城ヶ島)

現物に触れることで、環境問題も
より実感を持って捉えられる
― 通常の理科の授業での実験や観察は、具体的にどのように取り組まれているのでしょうか。
池上先生:小林先生の授業が人気ですよ(笑)。
小林先生:最近、フィールドノートの校内野外学習の一環で、土壌動物の観察を中1でやりました。それは毎年すごく賑やかになる実験です。 落ち葉の中にすごく小さな生き物がたくさん住んでいて、それらが落ち葉を日々分解しています。実は森が落ち葉や動物のフンや死骸で埋まらないのは、落ち葉の下の小さな生き物が活躍しているからという説明の後で、実際にそれをつかまえて観察してスケッチするという授業なのですが、落ち葉の中から生徒たちにとっての魑魅魍魎が出てくるわけです(笑)。小さな生き物をつかまえる特別な装置を使い、実際に広げたトレーの中でミミズやムカデをつかんでシャーレに入れて観察する時間を取ると、まず普段は見ないものを見ますから、悲鳴と驚きの声が入り混じって非常に盛り上がります(笑)。 しかし、そういう一見気持ち悪くても、日々足元で生き物たちの活躍する世界がうまく回っているんだ、生態系というものがあるんだということを、実際に見て感じて驚きながら観察する実験は、非常に良いものです。虫に近づけないという生徒もいますが、学年に数人ですね。みんなでやっていると、意外に大丈夫なようで、その世界に自ら飛び込んでいきます。
池上先生:高校生になると、そういった実験の作業が落ち着いてできるようになっていきます。実験で虫を解剖しなければいけなくても、もうキャーキャーは言っていないですね。無言で作業をしていて、頼もしさを感じます(笑)。
― 観察ではスケッチも多いのですか。
小林先生:中1の最初は多いですね。ほとんど毎回スケッチです。スケッチをして初めて、「こうなっていたんだ」とその生き物を理解するということが多々あるので、本気で動植物を見つめることになった時にはスケッチは非常に重要な手段だと思います。
池上先生:高校では、生物の分野でいうと分析ができるかどうかになってくるので、データを用いてそこから何が言えるのか、科学的な思考を踏まえたレポート作りになります。
― そういった実験や観察を通して、生徒の皆さんはどのように成長していきますか。
小林先生:長い目で見た時に、自分と自然とのつながりに思いを馳せることができる人になってくれるのではないかと期待しています。ニュースで盛んに環境問題が取り上げられていますが、やはりどこか他人事に感じてしまうと思うのです。でも、実際に自然界のものに触れたうえで、環境問題や生き物の話に触れると、より実感を持って捉えることができると思います。
池上先生:高校1年の真鶴への理科野外学習は、自然の中での自分の立ち位置や自然とどう関わっていくかを意識するきっかけになっていて、進路を考えた時にそれが活きてくる生徒もいますし、直接関係がないように見えて、それが実はつながっていたことに後で気づく生徒もいます。実際に本校を卒業した私の仲間たちも、野外学習や実験・観察、理科の授業を通して、自然に目を向けることをすごく意識するようになったと言いますし、子どもがいる友人は「子どもにも見せて触らせたい」と言います。「そういう教育が清泉にはあるでしょ」と言われると、そうだなと納得します。

清泉の理科教育を受けたから
教員の道を目指した
― 池上先生は清泉女学院中高の卒業生ですが、ご自身にも清泉の理科教育が影響していますか。
池上先生:理科の教員になろうと思ったのは、確実に清泉女学院に入学して理科教育を受けたからだと思います。どの理科の授業もすごく印象的ではあったのですが、やはり高校1年の理科野外学習が一番印象に残っています。バスにクラス全員が乗り、そこに理科の先生が1人付いて解説して下さるのですが、人間が影響を及ぼして変わりゆく自然環境を目の前にして、「あなたはそれを知ってどうするの?」、「あなたはどう考えるの?」という問題提起をされたんです。それが、生物の中で人間はどういう生き物なのだろうということに興味を持つきっかけになり、生物を勉強したいと思いました。 先生から「こうでしょ」と教えられたのではなく、「どう思うの?」と提起されたことがすごく印象的だったので、私も何かを教える・知識を伝えるだけではなく、考える材料を与えられる教員になりたいと思って、この道を目指すことにしました。いろいろ感じてもらって、考えてもらいたいんです。そういう教育ができたらなとずっと思っています。
― 小林先生は、3年前に清泉に来られて、理科に新たな風を吹き込まれたとお聞きしています。その立ち位置から指導において大切にされていることは?
小林先生:僕はそんなに生徒たちに気を遣っていなくて、自然体で僕がやりたいように楽しそうにやることが重要だと思っています。僕が本当に楽しくやっている姿、生き様を見せることで、付いて来てくれる生徒が多いと思うのです。去年、野外学習で海に行った時も、魚をすくうのに夢中になってしまって「こんなに獲れたよ」とみんなに見せたら、1人の生徒が「先生、本当に生き物が好きなんですね」とぽつりと言って去って行きました。それは僕の心の中では、「狙い通り」という感じでしたね(笑)。

理科の教養や知識のベースを、
清泉の理科教育で培ってほしい
― 最後に清泉の理科教育を通して、身につけてほしいことを教えてください。
小林先生:例えば実験だとチームでやることが多いので、チームワークや周りへの気遣い、安全対策も必要になります。「私が!」となってしまうと、1つの実験を成し遂げることさえうまくいかないわけで、理科の授業や観察を通じて、人間関係や協力して何かをやり遂げるという人間的な成長にも結びつけてほしいと思っています。
池上先生:私は、実験も実地に行って観察することも含めて、いろいろ感じたことを振り返って考えを深めていく力を身につけてもらいたいですね。それは理科だけではありませんが、深めていく力は大切ですし、そういう力を身につける一端に理科教育があればいいなと思います。
小林先生:今は科学リテラシーが重要な時代ですが、医療や環境問題が複雑化していて、自分たちの社会や家族が病気になればどういう選択をすべきか、エネルギー問題をどうするかまで自分の頭で考えないといけません。その時に、理科の教養や知識が要求されます。そこでベースとなる力を、ぜひこの清泉の理科教育で培ってほしいと思っています。
池上先生:本校の生徒や卒業生の自分の友人たちを見ていると、清泉の生徒は受容力のある人が多い気がするんです。例えば同じ性質を持っているものでないと受け入れられないということがあまりない。多様性を認められるのは、理科でいろんな生物の世界を見て、いろんなつながりを見て、みんなで一緒に作業してきたことも一端としてあるのかなと思います。
小林先生:今年は新型コロナウイルスの影響でできなかったのですが、去年と一昨年は「虫を食べる会」を開きました。「昆虫食には実はこういうメリットがあり、国連も推進している次世代の注目のもの」とスライドで説明した後に、蚕やイナゴといった昆虫食の試食会をやります。もちろん希望者だけですが、学年の3分の1以上は参加したと思いますね。「怖い」とか「キモイ」と口では言っているけれど、触れてみたいというモチベーションは高いんです。そういった好奇心や、多様性を受け入れる力はこれからも大事に培いたいですね。

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