【海城中学高等学校】
海城の教育をデジタル教材として提供
未来の教室 STEAMライブラリー

02 防災教育
~災害に対してどのように向き合うか~
解説【前半編】

防災の知識を得るとともに、
今、何をすべきかを考えるきっかけに

INTERVIEWEE

中田 大成先生
校長特別補佐/入試・広報室室長/ICT教育室室長/国語科教諭

「防災教育」教材前半4コマ 制作意図 多面的なアプローチで防災を学ぶ

中田先生
「防災教育」の教材動画は9コマで構成しています。前半は、被災地や避難所で生じる問題について現場を知るピースボート災害支援センターの方の話からスタートさせました。そして、日本列島で生きていくうえで宿命的に逃れられない地震災害に対して、我々の先祖がどのようなふるまいや態度をとってきたのかを確認することによって、この教材に取り組むための動機付けを行います。

また災害について一定の科学的知識を得ることが必要だと考え、災害が起こるメカニズムや現場で生じること、時間系列の中で起こる変化をきちんと学べるように組み立てて、後半につなげています。

2コマ目「古典など文献から見た日本の災害」について 古典から学ぶ
災害時の人の振る舞いや心構え

中田先生
古典の専門である私は、2コマ目の「古典など文献から見た日本の災害」を担当しました。日本列島に生きるうえで逃れられない地震災害における昔の人々の振る舞いが、古典(鴨長明「方丈記」)の中にどのように記されているかを確認することで、今後災害に対して取るべき態度を考えます。

地震の研究の中には、歴史地震学というものがあり、歴史学や国文学で蓄積されてきた資料を活用して、どの程度の頻度でどのあたりの場所で地震が起こるのかを研究しています。そこで、子供たちにも地震について古典や歴史学から考えるという視点を提供したいと考え、「【古代中世】地震・噴火史料データーベース<β版>」を紹介しました。

このデータベースは地震研究者と情報学の専門家たちで作っていて、歴史的な資料を簡便に検索できます。発展課題③ではこれを使って、古今和歌集の中の1句が実体験に基づいた表現ではなかったかという学説について調べてもらいます。そうすると、2011年の東日本大震災までに東北で2回地震があったことをにおわせる資料が出てきて、比較することで大まかな地震の発生間隔をつかむことができ、歴史地震学の雛形を示すこともできるのです。

その前の発展課題②は、特に私のやりたかったことです。「方丈記」に記されているのと同じ地震に関する古典作品を見ると、災害の受け止め方はそれぞれ微妙に違います。大きく分けると鴨長明以外の人は、自分たちで理解できないようなことが起こると、たたり神や怨霊信仰など、何らかの合理化をしていきます。

しかし長明は世の中に溢れている不条理や理不尽なものに足をとらわれず、すべてを「そういうものだ」と引き受けて前へ進んでいこうとしています。そういう生き方を、発展課題として最終的に考えてもらえれば、この予測がつかないコロナ禍にあっても、萎縮するだけではなく、科学的に探究すると同時に、不条理・理不尽な現実もあるがままに引き受けて前に進んでいくんだという心構えを持てます。

単に知識を得るだけで終わっては意味がなく、長明という人が合理化しないスタンスで物事を引き取ろうとしたのはなぜなのか、そこにある可能性は今を生きる我々にどういう形で活きてくるのかを考えなければ、趣味人の勉強で終わります。それではいけないと考えました。大きな変化の時代の心構えまで、できれば普遍化して考えてほしいと思います。

3・4コマ目「災害をもたらしうる地震現象のしくみ・洪水現象のしくみ」について リアリティある実験で知る地震や洪水

中田先生
3コマ目の「災害をもたらしうる地震現象のしくみ」、4コマの「災害をもたらしうる洪水現象のしくみ」については、地学の佐々木が担当しました。最新の知見に基づく解説を、地震研、防災研、筑波大や気象庁の研究者にできるだけわかりやすくしてもらった上で、それらの研究に繋がっていくような基礎的なテーマについて子供たちが実感できるような実験に落とし込み、肌感覚で理解ができる授業にしています。

洪水につながる雨が降るメカニズムと、地上に落ちてきた水が河川の氾濫をどういう形で起こすのかという実験は、子供たちが試行錯誤しながら調べることができるものになりました。実際に水を流して土砂の変化を再現する実験はわかりやすく、それをコンパクトにしても実験が可能だと提示していて、受講して関心を持った研究テーマで具体的に実験をやってみようという形に誘導しています。

他の事業主の動画と比べると、学校の現場の先生が作ったものであることが特徴になっていて、子供たちが納得でき、触発される内容になりました。

「防災教育」教材を制作しての思い 新しいレールを敷くことにチャレンジする
メンタリティと素養を中高の間に育てたい

中田先生
「未来の教室」は非認知スキルの向上を目指しているのだと思っています。これまでの日本の教育の中心には答えにいかに早く正確に到達するかという学習がありましたが、これからは新しい価値を作っていかなければいけない。そうすると、答えが想定されていない課題に立ち向かいそこで試行錯誤することや、答えが出てこない中でも耐えられるメンタリティが必要になってきます。

先日、新しく起業を考えているという東大に行った卒業生が来校して、「敷かれたレールの上をいかに要領良く進んでいくかという学習や人材は一定数必要だが、その価値は確実に下がっている。自分たちは新しいレールを敷くことにチャレンジする生き方をしていかなければいけないし、そういう人材を母校でも育ててもらいたい」と話してくれました。

それは日本という国が今の時代において必要としている方向性です。新しいレールを敷くことにチャレンジしていくメンタリティと素養を中高の間に育てたい。その思いを「STEAMライブラリー」の教材には託しました。

「防災教育」教材に関しては、将来に向けてというよりも、今、どう物事を考えればいいのか、何を備えればいいのかと、自分たちが置かれている今を振り返る一つのきっかけにしてもらえればいいと思います。

そして、「STEAMライブラリー」を通して、知的な喜びを味わってほしいです。探究とは本当に面白く、人とつながることによってさらに勉強したいと思い、刺激を受けて、自分自身も開かれていきます。一度そういうドーパミンが出ると放っておかれても探究するようになるでしょう。

本校では30年前、東大に多くの生徒が入学するも、入学後留年する生徒の数も多いと指摘されたところから、そうではない生徒たちを作ろうと学校改革に取り組んできました。東大の合格者数よりも、新しいレールを敷くような生徒たちをどれだけ輩出できるかが本当の勝負です。

「この社会を変え得る創造力と確かなパブリックマインドを持った生徒を作るんだ」という30年前の初心は忘れません。「STEAMライブラリー」においても、そこはぶれていないと思っています。

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