【海城中学高等学校】
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未来の教室 STEAMライブラリー

04 農業と生物多様性の保全を両立するには?
~解説

農業と生物多様性の両立
正解のない問題を議論し、合意形成を図る

STEAM ライブラリー「農業と生物多様性の保全を両立するには」より

INTERVIEWEE

関口 伸一先生
グローバル教育部/理科教諭

「農業と生物多様性の保全を両立するには?」教材 制作意図 農業と生物多様性
偏らない両立の形を考える

関口先生
農業は高齢化や後継者不足など様々な問題を抱えています。生物多様性の保全に関しては、地球環境問題の中で生物の種が急速に減少している現実があります。生物の減少が著しいのは農地周辺の「二次的自然」と呼ばれる場所で、背景に挙げられるのが農業の効率化。水路の三面コンクリート化などによって生き物が住めなくなっていることが一因です。

反対に生物の保全を重視しすぎると、農業の生産効率が落ちるという考えに至ることがあります。農業と生物多様性の保全を対立するものと捉えてしまうと、どちらかを犠牲にしないと成立しないという考え方になってしまうのです。

今回の教材「農業と生物多様性の保全を両立するには?」では、研究者、農家、米販売店、自然保護団体など様々な方の取り組みを動画で視聴し、農業と生物多様性を対立問題として扱うのではなく、両方にメリットがある形での両立を考えます。

WWFジャパンの持続可能な農業と生物多様性保全の両立のプロジェクトに携わっていた方々へのインタビューがメインです。各種の社会問題は、「あちらを立てればこちらが立たず…」の構図になりがちですが、この教材では両方にとって良い環境と状況を作るにはどうすれば良いのかを考えてもらいます。

教材を制作するうえで、「農業と生物多様性の保全を両立するには」というタイトルであり、生物多様性保全のメッセージが強くなると予想できました。特にWWFジャパンの九州でのプロジェクトに関わる農業や自然環境、社会環境の整備に取り組まれている方を取材したので、教材に出てくる方の多くは「自然を守りたい」という思いが根底にあります。

しかし、生物多様性保全を優先した考えだけで固めると、他の考えを拒絶するような偏った形になることもあります。それでは中高生が学ぶには適さないと考え、農業と生物多様性保全のどちらにも大切な部分があるという前提で探究するために、偏らずフラットになるように心がけました。WWFジャパンの方ともその考えは一致していました。

「農業と生物多様性の保全を両立するには?」教材の特徴 答えを決めつけるのではなく
それぞれの考えや意見を大切に

関口先生
この教材には、答えがありません。何かひとつの答えを求めるよりも、農業や生物多様性、治水や土地利用のデザインといった視点を与えて、正解がわからない問題を皆で議論し、妥協点を見つけ、合意形成を図っていくという狙いがありました。

中でも、地域性、その土地が持つ歴史による違いを考えてほしいと思います。例えば、災害が多い場所では治水に力を入れた方が良いでしょうし、米が美味しいと昔から評判でそれを地域のブランドにしてきた場所ではお米の美味しさを維持する農法が大切に考える方が多いでしょう。

昔から貴重生物がいる土地なら、生態系や自然を重視するとそれが魅力になるでしょう。農業と生物多様性保全を考えるとき、それぞれの土地や場所によって関わる人の想いも変わり、答えが異なってくることに気づいてもらいたいと考えました。

この教材に一つの答えがないように、世の中の様々な問題にも答えの出ないものがたくさんあります。私が参加している「トトロのふるさと基金」での里山保全活動でも、常に正解がないことばかりです。

雑木林の維持に落ち葉掃きが良いと聞き取り組みますが、やりすぎると林床の植生が貧弱になるなど問題点も出てきます。昔ながらの有機農法だけだと、作物の収量が減ることも起こります。

人を大事にするか、自然を大事にするか、持続的に活動を続けるにはどうすればいいかなど、問題に完全な解決法や答えはありませんが、そこで大切なことは持続的に関わりながらプロジェクトを進めることではないかと個人的には思います。

その中で、自分が取り組んだ姿勢に対して自分はどう思うかという自己評価を大切にしてもらいたいです。今回の教材にアートの要素を入れた理由とつながるのですが、アートも自分が作ったものに対して周囲から評価を受け、批判されることもあります。

批判されたからダメなのではなく、そもそもその批判は自分の作ったものや考えに対して、妥当なものなのか。様々なことを考慮し、自分なりに納得した上での作品や考えであれば、ダメというレッテルを貼る必要もありません。

批判を受けつつも、自分に甘えることなく、自分が納得しているかどうか、そうした自己評価ができる力や度胸が、これからの世の中で必要になると思います。

「農業と生物多様性の保全を両立するには?」教材を制作しての思い 海城の生徒をイメージしながら
個性を潰さない教材制作

関口先生
この教材を見て、突拍子もない考えをする子が出てきたとしても決して悪いことではない。一人ひとりの個性を潰さないものにしたいと思いながら教材を作ってきました。

農業と生物多様性保全を両立することを考えるときに、生徒一人ひとりが個人の考えとしてバランスが取れている必要性はありません。例えば、2割の人は農業を、2割の人は生物を、6割の人はどちらも大事だと考えるような形でも良いと思います。個々の主張は違っても、結果として社会全体でバランスが取れていることが良いと考えています。

どちらかに主張が偏り過ぎると、世の中の構図として不自然です。ですから、この教材を見て、農業を過剰に重視する子がいても、生物多様性に肩入れする子がいても良いのです。また、ドローンを使ったスマート農業の話が出てきますが、興味を持てばその分野を突き詰めてもいいと思います。

生徒の個性を重視することは、海城の授業でも同様です。中には驚くような偏った刺激的な意見を出す生徒がいて、若い考えだと思うときもありますが、大事な視点を教えてくれることもあります。

偏った意見だとしても教員がすぐに否定せずに一旦、受け入れることで、別問題の議論のきっかけになっていくのです。その経験があったので、今回の教材制作時も、いろいろな意見をうまく受け入れられる教材にしたいと意識しました。

加えて、社会科的な問題と理科的な考え方の両方を大切にすることにこだわりました。海城の生徒たちが中学3年時に卒業論文として社会科のレポートを作ります。米の流通問題や農家の高齢化問題を調べるとしたら、生徒たちは何を調べるか、どういう資料があれば探究していくかをイメージしながら作りました。

「農業と生物多様性の保全を両立するには」の教材を通して、世の中には様々な視点でいろいろなことを考えて取り組んでいる人がいる、その考えは学校の勉強ともつながっているということを少しでも知って欲しいです。

また、生物が好きな子は生物学者だけではなく、地学的要素や物理的要素にも興味があれば水路設計の道にも進めます。生物に関わるだけでも複数の仕事があって、実際にあらゆる役割を持って取り組まれているという関わり方の多様さを、この教材で知ってもらえたら嬉しいです。

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